(注)本レポート上、下は前田高行論稿集 マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/
I.ExxonMobilの業績(下)
2.2007~2011年の業績推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-93bExxon.pdf参照)
2007年から2011年までの過去5年間の売上、利益、設備投資及び生産量(天然ガスを石油に換算した合計生産量)は以下の通りであった。
(1) 売上高
2007年に4,046億ドルであったExxonMobilの売上は2008年には4,774億ドルに急増したが、2009年には一転して前年比35%減の3,106億ドルに急減した。その後2010年には3,832億ドルに回復し、更に2011年の売上は大幅に伸び2008年を上回る史上最高の4,864億ドルに達した。
この5年間の売上の増減は石油価格の急騰及び急落が主な理由である。すなわち2007年から2008年にかけては生産量が急減しているにもかかわらず売上高は増加しており、石油価格の急騰が売上高増加の要因となっている。しかし2009年は生産量が横這いだが石油価格の急落により売上は前年比35%の急減であった。2009年以降は生産量の増加と価格回復により売上高は順調に回復している。
(2) 利益
各年の利益額は2007年406億ドル、2008年452億ドル、2009年193億ドル、2010年305億ドル、2011年411億ドルであった。5年間では2008年の利益額が最高であり、2009年には前年の半分以下にとどまった。その後、2009年から2011年まで利益は順調に上向いているが未だに2008年を上回ってはいない。
売上高と利益の対前年比増減を比較すると2009年の売り上げは対前年比34.9%の減少であったが、利益はそれ以上の57.4%減となっている。その後2010年及び2011年は売上高の対前年比増加率が23.4%増及び26.9%増であるのに対し、利益はそれぞれ58.0%増、34.8%であり、いずれも利益の増加率が売上増加率を上回っている。
(3) 設備・探鉱投資額
設備・探鉱の投資額は売上或いは利益のぶれとは関係なく毎年増加の傾向にある。即ち2007年は209億ドル、その後2008年261億ドル、2009年271億ドル、2010年322億ドル、2011年368億ドルの投資が行われている。
2011年の場合、投資の90%は上流部門が占めており、ExxonMobilでは継続的に探鉱開発に力を注いでいることがわかる。石油及び天然ガスは再生不可能な資源であり、従って石油企業としては新規鉱区の獲得とその探鉱開発、既存油田の回収率向上、同業他社の買収などにより自社の資源量を維持し続けなければならない宿命がある。さらに新規鉱区の探鉱開発はリスクも高く、投資のリードタイム(回収期間)が長いため、長期的視野に立った投資が必要である。ExxonMobilの投資が毎年増加しているのはこのような理由のためと考えられる。
(4) 生産量(石油及び天然ガスの合計生産量)
2007年に418万B/Dであった生産量は2008年、2009年と続いて4百万B/Dの大台を割った。このような生産量の急激な減少はいくつかの理由が重なったものであり、その一つは2007年のサブプライムショック以降、世界景気が急速に冷え込み、その結果石油製品の販売量が減少したことにある。さらに産油国における政治的な要因もあるものと考えられ、ExxonMobilの場合は、ベネズエラの石油国有化問題などの影響もあったと推定される。しかし2010年には445万B/Dに回復し、2011年も微増の451万B/Dと過去5年間で最も多い生産量となっている。これは探鉱投資による新規石油・ガス田の発見、或いは米国内のシェール・ガス権益取得などのM&A戦略の成果が現れたものであろう。
(ExxonMobil編 完)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
2/7 経済産業省 枝野経済産業大臣とアラブ首長国連邦アブダビ首長国スウェイディ経済開発庁長官との会談及び第2回アブダビ投資フォーラムの結果概要について http://www.meti.go.jp/press/2011/02/20120207003/20120207003.html
2/7 BP BP Fourth Quarter and Full-Year 2011 Results http://www.bp.com/extendedgenericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7073072 *
2/10 JX日鉱日石エネルギー 水島製油所における第二パイプライン防護設備工事での事故について http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2011/20120210_01_0940108.html
*ExxonMobil, BP, Shellの過去の業績については下記参照。
・韓国とサウジアラビア、20年間の長期大量の原油供給契約を締結。 *
・韓国とカタール、LNG2百万トン/年の追加供給契約締結、期間は20年間。
*契約概要:
Aramcoは韓国S-Oilに年間2.3億バレル(国内消費量の30%に相当)の原油を20年間供給。
S-Oilは韓国第3の石油企業で製油能力は669千B/D。Aramcoが35%の株式を所有。
(注)本レポート上、下は前田高行論稿集 マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/
I.ExxonMobilの業績(上)
ExxonMobil、Shell及びBPは三大国際石油会社(International Oil Company, IOC)或いはスーパー・メジャーと呼ばれているが、これら三社の昨年第四四半期及び通年業績が相次いでホームページに公表された。
本稿では三社の公表資料の中から2011年度の売上高、利益、石油及び天然ガスの生産量並びに設備投資額を取り上げて分析するとともに、過去5年間(2007~2011年)の各社の業績の推移を見ることとする。そしてシリーズの最後に三社を横並び比較し、その優劣を検討して見る。
最初に取り上げるのはExxonMobil社である。(詳細は下記同社HPを参照)
http://www.businesswire.com/portal/site/exxonmobil/index.jsp?ndmViewId=news_view&ndmConfigId=1001106&newsId=20120131006006&newsLang=en
1.2011年の売上・利益・投資及び生産量
(1)売上高
ExxonMobilの2011年1-12月の売上高は486,429百万ドルであり、前年度の売上383,221百万ドルに比べ27%の増収となった。後述の如く同社の原油と天然ガスの合計生産量は前年比微増であったにもかかわらず平均価格が大幅に上昇したことが増収の要因である。
(2)利益(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-93aExxon.pdf 参照)
利益は41,060百万ドルであった。これは前年度(30,460百万ドル)に対し35%上昇しており、売上高増収(+27%、上記)以上の結果となった。この利益額は日本円で2.9兆円程度に達し、国際石油企業の強靭さを見せつけたと言えよう。
利益の内訳を上流部門(原油生産)と下流部門(石油精製販売)に分け、さらにそれぞれを米国内と米国外に分けて比較すると、まず最も利益が多かったのは米国外の上流部門であり、全体の利益の71%の29,343百万ドルを稼ぎ出している。これに次ぐのが米国内の上流部門で利益額は全体の12%、5,096百万ドルであった。これらを合計すると同社の利益の8割強が上流部門によるものであることがわかる。
これに対し下流部門はExxonMobil全体の利益の11%を占めるにすぎず、米国外で2,191百万ドル、米国内では2,268百万ドルの利益を計上している。同社は利益の殆どを海外の上流部門に依存していると言える。
(3)設備及び探鉱投資
2011年度の投資総額は36,766百万ドルであり、同社は利益とほぼ同じ程度の投資を行っている。投資を上流部門、下流部門、化学部門およびその他に分けると、上流部門には全体の90%を占める33,091百万ドルが配分されている。利益に占める上流部門の比率は83%であり(上述)、これを上回る比率で上流部門に投資していることになる。同社は事業の軸足を上流部門に移していると言えよう。
(4)石油・天然ガスの生産量
2011年の石油と天然ガスの生産量は石油が一日当たり平均231万バレル(以下B/D)であり、天然ガスは日産131億立法フィート(以下cfd)である。石油の生産量はナイジェリア一国に匹敵する生産量であり、天然ガスはイランよりやや少ない程度である 。天然ガスを石油に換算し石油と合計した場合、ExxonMobilの生産量は451万B/Dとなるが、この生産量はメキシコ、ノルウェーを上回り世界第7位の規模である。
石油生産量を地域別にみると、最も多いのはアジア・大洋州の86万B/Dであり、続いてアフリカ51万B/D、米国42万B/D、欧州27万B/Dである。また天然ガスについてはアジア・大洋州が最も多く(54億cfd)、次いで米国(39億cfd)である。特に米国における天然ガスの生産量は近年大幅に増加しており3年間で3倍に急増している。米国では現在シェール・ガスの開発がブームを呼んでおり、ExxonMobilもMarcellus社の買収など積極的な投資を行って米国での天然ガス生産に力を入れている。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
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E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
1/29 ExxonMobil ExxonMobil to Restructure Holdings in Japan http://www.businesswire.com/portal/site/exxonmobil/index.jsp?ndmViewId=news_view&ndmConfigId=1001106&newsId=20120128005045&newsLang=en
1/31 JOGMEC 新海洋資源調査船 「白嶺(はくれい)」 が完成― 三菱重工業(株)下関造船所で引渡式 ― http://www.jogmec.go.jp/news/release/docs/2011/newsrelease_120131.pdf
1/31 ExxonMobil Exxon Mobil Corporation Announces Estimated Fourth Quarter 2011 Results http://www.businesswire.com/portal/site/exxonmobil/index.jsp?ndmViewId=news_view&ndmConfigId=1001106&newsId=20120131006006&newsLang=en
2/1 東燃ゼネラル石油 人事異動に関するお知らせ http://www.tonengeneral.co.jp/apps/tonengeneral/pdf/2012-02-01_2ja.pdf
2/2 出光興産 有機EL事業における戦略的提携~台湾・AUOとの戦略的提携に向けた基本合意について~ http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2011/120202.html
2/2 コスモ石油 役員担当の変更について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_120202/index.html
2/2 Shell Fourth quarter and full year 2011 results and interim dividend announcement http://www.shell.com/home/content/media/news_and_media_releases/2012/q4_2011_results_newsitem_02022012.html
2/2 Shell Royal Dutch Shell sets out new growth agenda http://www.shell.com/home/content/media/news_and_media_releases/2012/shell_sets_out_new_growth_agenda_02022012.html
2/3 JOGMEC メタンハイドレート海洋産出試験の開始について http://www.jogmec.go.jp/news/release/docs/2011/newsrelease_120203.pdf
2/3 石油連盟 豪雪の影響が懸念される地域への石油製品の安定供給に向けた連絡・協力体制の構築等について(会長コメント) http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2012/02/03-000557.html
(注)本シリーズ(1)~(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf
4.残された問題その2:不透明な石油の需給と価格
一方現在以上の増産が必要となった事態でもそれに対応出来るのはサウジアラビア(及びUAE、クウェイト)だけであることも間違いない。イランなどは現在の生産水準が目一杯であり、欧米の経済制裁のため投資が停滞しており生産量は減少していることを石油省副大臣自ら認めているほどである 。
さらにイランを巡ってはEUが同国からの石油の輸入禁止に動いており、また米国はイラン中央銀行と取引する金融機関を米国の金融システムから締め出すと決めた。実質的なイラン原油の輸入禁止措置である。これにより日本、韓国などもイラン原油の輸入が不可能になる。日本にとってイラン原油に代わる当面の調達先はサウジアラビア、UAEなどであり、天然ガス供給先としてのカタールと言うことになる。玄葉外相が1月5日からこれら各国を歴訪したのはとりもなおさずエネルギーの安定確保のためである。韓国大統領も今月初めにサウジアラビア、UAE及びカタールの中東産油(ガス)国を訪問し善後策を講じる腹積もりである。
浮き足立つ日韓などの消費国に対してサウジアラビアのナイミ石油相は、自国が十分な石油生産余力を有しておりいつでも必要な量を市場に供給する、と大見得を切っている 。またリビアやイラクの生産も回復しており、石油の供給不安はなさそうだ、という見方ができる。その一方、イランは対抗措置としてホルムズ海峡封鎖をちらつかせている。もし不幸にしてそのような事態が発生すればイラン原油のみならずGCC各国の原油及び天然ガスもストップし、世界が石油不足と価格暴騰に見舞われることは間違いない。但しホルムズ海峡の封鎖はイラン自身にとっても自らの首を締める瀬戸際政策であり、米国も威信をかけてこれを阻止するものと見られ、現実的ではないと多くの専門家は見ている。
需要面から眺めると欧州の金融不安が世界景気の後退を招きエネルギー需要が停滞するとの予測がある一方、中国、インドなど新興国の需要は底堅く石油需要の伸びは引き続き堅調であるとの見方も成り立つ。ともかく需給バランスについては楽観説と悲観説が錯綜しており、一寸先が解らない状況である。
そしてもう一つの問題が価格である。最近の北海Brent原油は110ドル台、北米WTI原油も100ドル前後で推移している。かつて原油が100ドルになれば世界経済が壊滅すると恐れられたが、省エネ技術と価格転嫁がある程度浸透して世界経済は何とか動いている。勿論高価格によって潤っているのは産油国であり、日本など一方的なエネルギー消費国はコスト吸収に血のにじむ努力を強いられている。ここで注意すべきことは、エネルギー消費国とはいえ米国や中国は同時に世界有数の産油国であり、ExxonMobilやSinopecなど両国の石油企業は油価の高騰により大いに潤っている。特に米国の場合は石油開発の採算性が向上したためシェール(頁岩)層からの石油・天然ガスの商業生産が軌道に乗って来た。
かつてサウジアラビアは石油価格が上昇すれば生産コストの高いマージナル原油の生産者を利し、或いは代替エネルギーの開発が促進されるとして高価格政策に懐疑的であった。しかし今ではサウジアラビア自身が経済開発と社会福祉政策のためより多くの石油収入が必要な体質になっている。同国のナイミ石油相が、現在の原油価格は望ましい水準だ、と言う始末である。原油価格は需要と供給によって変動し、コモディティの宿命として投機の対象にもされる。価格を決めるのは「見えざる神の手」である。
原油の需給と価格は今後どのように変動するか予断を許さない状況である。今回の総会ではOPECは丸く収まったが、この状態がいつまで続くであろうか?
(完)
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