国際石油企業5社(ExxonMobil, Shell, BP, Total, Chevron)の業績に関する下記図表を掲載しました。
なお本ブログで解説記事を連載中です。
http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-Energy.html
・2013年売上高/利益/売上高利益率/設備投資額/石油・天然ガス生産量
・2008~2013年売上高/利益/売上高利益率/設備投資額/石油・天然ガス生産量の推移
(全12図表)
国際石油企業5社(ExxonMobil, Shell, BP, Total, Chevron)の業績に関する下記図表を掲載しました。
なお本ブログで解説記事を連載中です。
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・2013年売上高/利益/売上高利益率/設備投資額/石油・天然ガス生産量
・2008~2013年売上高/利益/売上高利益率/設備投資額/石油・天然ガス生産量の推移
(全12図表)
主役交代の石油開発業界
2000年のアラビア石油の利権契約終結と前後して日本の石油開発業界も主役交代の大きな節目を迎えていた。「70年代の石油開発業界」(第5回)で触れたように当時の業界は帝国石油、石油資源開発及びアラビア石油の御三家にインドネシア石油資源開発を加えた4社が中核であった。その他開発案件ごとに設立されたプロジェクト・カンパニーと呼ばれる群小企業が百社以上あったが、プロジェクト・カンパニーの殆どは探鉱に失敗したまま塩漬けにされた会社であり、日本の石油開発企業と言えば上記の4社だけと言っても良いほどであった。
4社が設立されたのはそれぞれ帝国石油が第二次大戦中の1940年、石油資源開発は1955年、アラビア石油が1958年であり、インドネシア石油(Indonesia Petroleum Exploration Co., 略称INPEX)が最も遅い1966年である。業界での序列もほぼ年代順であり、業界団体の石油鉱業連盟の会長は上位3社の持ち回り、会費は4社による均等負担の状態が1990年代末まで続いた。企業としての業績面で見れば1980年代前半まではアラビア石油が高収益の上場企業として世評が高く、インドネシア石油は収益構造と生産原油の質の高さに支えられアラビア石油以上の高い収益を誇り、非上場企業であるが知る人ぞ知る超優良企業に成長していた。
1990年代以降は停滞する先行3社を尻目にインドネシア石油が豊かな資金力を武器にインドネシア以外への進出を図った。このため同社は社名を国際石油開発と変えたのであるがこの際、同社は英文名を従来通りINPEXとした。何故ならインドネシア(Indonesia)も国際(International)も頭文字はともに「IN」であったため英語の社名を変更する必要がなかったからである。これは同社が日本の一石油開発企業から世界の石油業界に飛躍する上で一つの大きなメリットだったと思われる。
国際石油開発は新たに進出したカザフスタンでもエクソンモービルと共に世界最大級のカシャガン油田を発見するなど波に乗り日本を代表する石油開発会社に成長していった。さらに累積赤字で瀕死の状態にあったアブ・ダビの「ジャパン石油開発」を吸収合併して中東にも足掛かりを築いたのである。そして2006年には東証一部に上場、帝国石油と合併して「国際石油開発帝石ホールディングス」が設立された。これは国際石油開発と帝国石油の対等合併の形を取っているが、実質的には前者による吸収合併と言って良いであろう。こうして日本の石油開発業界は国際石油開発帝石の一強状態となり、その陰でアラビア石油は消えていったと言う次第である。
石油開発4社の栄枯盛衰と共にもう一つ忘れてはならないのが日本のエネルギー開発事業の潮流の変化であろう。その最初の潮目は堀内光男元通産相による石油公団乱脈融資告発事件である。1997年に通産相(現経産相)に就任した堀内氏は石油公団について事務方が用意した国会答弁書の内容に疑問をもち、石油公団の関連企業(上記プロジェクト・カンパニーのこと)112社を独自に精査し、その結果公団の不良債権が1兆3千億円に達することに気がついた。富士急行の経営者として帳簿の裏を読む力の賜物であろう。彼は通産相退任後の1998年、文芸春秋に「通産省の恥部 石油公団を告発する」と題する論文でこの事実を告発した。それが契機となり石油公団は解散された。石油公団はその後金属鉱業事業団と合併再編され、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構となって現在に至っている。
もう一つの潮目の変化は天然ガスの利用拡大である。1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で炭酸ガス排出抑制が決議され、石油よりも炭酸ガス排出量の少ない天然ガスが脚光を浴びるようになった。さらに東京電力福島原発事故により天然ガスは時代の寵児となり、豪州、アフリカ、中央アジアなど世界各地で天然ガス開発競争が始まった。それに輪をかけたのが米国のシェールガス革命である。こうして現代のエネルギーの潮流は石油から天然ガスへと傾きつつある。
この天然ガスの流れに商機を見出したのが総合商社であった。これまでパイプラインが主流を占めていた天然ガス市場でLNG(液化天然ガス)が次第に大きな存在感を示すようになった。総合商社は天然ガスの開発そのものに投資するだけでなく、長期安定需要家の確保、さらにはLNG出荷搬出設備、LNG運搬船、消費地でのLNG受入再ガス化設備とあらゆる面で関与しようとしている。液体のLNGにより天然ガスは石油と同じ世界中に流通するコモディティ(商品)化しつつあるが、それは総合商社が最も得意とする分野なのである。
石油の時代が終わった訳ではない。しかし「中東」で「石油」だけを生産してきたアラビア石油の使命が終わったことは間違いない。アラビア石油は消えるべくして消えていったのである。同社の華々しい歴史を知る人も年々少なくなっていく------------。
(続く)
(追記)本シリーズ(1)~(30)は下記で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0278BankaAoc.pdf
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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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・Shell、北海の3油田を売却、向こう2年間で150億ドルの資産圧縮。 *
*「国際石油企業の2013年業績速報」(本ブログ連載中)
http://blog.goo.ne.jp/maedatakayuki_1943/e/f164f946c9bde4015e10e60860175286
2/12 Total Fourth quarter and full year 2013 results http://total.com/en/media/news/press-releases/20140212-Fourth-quarter-and-full-year-2013-results20140212-Fourth-quarter-and-full-year-2013-results
2/12 住友商事/東京ガス 米国コーブポイントLNGプロジェクトにおける、天然ガス液化加工委託並びにLNG販売に関する共同事業会社設立について http://www.sumitomocorp.co.jp/news/detail/id=27678
2/14 昭和シェル石油 代表取締役及び役員の異動に関するお知らせ http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2014/021402.html
2/14 昭和シェル石油 平成25年12月期 通期決算について http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2014/021401.html
2/14 伊藤忠商事 日本精蠟株式会社との資本・業務提携に関するお知らせ http://www.itochu.co.jp/ja/news/2014/140214.html
II. 2013年の業績比較
1.売上高
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-01.pdf 参照)
ここではExxonMobil, Shell, BP, Total及びChevron5社の2013年の売上高を比較する。参考までに日本最大のエネルギー企業JXホールディングスとの比較も行った(JXホールディングスの今3月期の予想数値は1/21付け日本経済新聞による)。
5社の中で売上高が最も大きいのはShellの4,596億ドルであり、これにつづくのがExxonMobilの4,383億ドルである。なお後述する6カ年(2008-2013年)業績推移で詳しく触れるが、昨年までの売上高はExxonMobilが常にトップであったが、今回初めてShellがトップに立った。但しShellは利益面では5社中4位でかなり見劣りしている(次項参照)。
Shell、ExxonMobilに次いで売上高が大きいのはBPの3,791億ドルであるが、これはシェルの約8割である。Total、Chevronの売上高はそれぞれ2,517億ドル及び2,288億ドルで、トップのShellの売上高のほぼ半分である。
JXホールディングスの3月期売り上げ予想額は12兆2千億円(1ドル=100円換算で1,220億ドル)とされ、Shellの27%であり、BPの3分の1、Total或いはShellの2分の1である。同社の場合、エネルギー(いわゆる下流部門)、石油・天然ガス開発(いわゆる上流部門)に加え金属事業部門を含むため5社と厳密には比較できないが、昨年度の同社決算資料によれば全売上高に占めるエネルギー及び石油・天然ガス開発部門の比率は86%である 。従ってJXホールディングスの売り上げ規模はShellの24%程度と試算される。
(続く)
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I. 各社の業績概要 (続き)
4.Totalの2013年第4四半期(10-12月)及び通年(1-12月)の業績
*同社ホームページ:
http://total.com/en/media/news/press-releases/20140212-Fourth-quarter-and-full-year-2013-results20140212-Fourth-quarter-and-full-year-2013-results
(1)売上高
Totalの2013年10-12月の売上高は650億ドルであり、また通年売上高は2,517億ドルであった。前年同期比では10-12月期は0.5%の増収、通年ベースでは-2.1%の減収である。
(2)利益
10-12月期は22憶ドル、通年では112億ドルの利益であり、前年同期と比較すると10-12月期は-28.1%の減益、通年でも-17.8%の減益である。通年利益のうち上流部門の利益は124億ドルである。
(3)石油・ガス生産量
昨年のTotalの石油生産量は日量平均1,167千B/Dであり、前年(2012年)比4.3%減であった。天然ガスは日量平均6,184mmcfdであり、これは前年比5.2%増である。
石油と天然ガスの合計生産量は石油換算で2,299千B/Dとなり、2012年比横這いである。
(4)設備・探鉱投資
2013年の年間の設備・探鉱投資額は259億ドルであり、これは2012年比で18%の増加であった。
(続く)
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I. 各社の業績概要 (続き)
4.BPの2013年第4四半期(10-12月)及び通年(1-12月)の業績
(1)売上高
BPの2013年10-12月の売上高は937億ドルであり、また通年売上高は3,791億ドルであった。前年同期比では10-12月期は-0.2%の減収、通年ベースでは+0.9%の増収である。
(2)利益
10-12月期は11憶ドル、通年では238億ドルの利益であり、前年同期と比較すると10-12月期は-29.2%の赤字、通年では111.2%の黒字となっている。通年利益のうち上流部門の利益は167億ドルであり利益全体の70%を占めている。
(3)石油・ガス生産量
昨年のBPの石油生産量は日量平均1,176千B/Dであり、前年(2012年)比0.3%減であった。天然ガスは日量平均6,259mmcfdであり、これは前年比-5.3%である。
石油と天然ガスの合計生産量は石油換算で2,256千B/Dとなり、2012年比では-2.7%である。
(4)設備・探鉱投資
2013年の年間の設備・探鉱投資額は366億ドルであり、これは2012年比で45.3%の増加であった。
(続く)
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デラシネたちの運命
利権契約終結と言う事実を突き付けられて社員は精神的な「デラシネ(根なし草)」状態に陥った。そして3月に入ると次には現実としてのデラシネの運命が待っていた。会社側から希望退職制度を導入し日本人社員をほぼ半減すると言う衝撃的な経営合理化策が示されたのである。組織の統廃合、海外事務所全廃、取締役数の減少、経費の60%削減などの合理化案も含まれていたが、一般社員にとっては現在の社員330人を180人体制とする人員削減案こそ最大の問題であった。将来にはさらに苛酷な現実が待っている。3年後にクウェイトとの利権契約が満了になることである。クウェイトはこれまでサウジアラビアと会社(つまりは日本政府)との交渉を見守るとの姿勢であったが、サウジアラビアが契約を終結した以上、クウェイト側も同じ対応を取ることは目に見えている。石油産業の国有化に対する姿勢は歴史的にもクウェイトの方が強硬であったことからも契約の延長は望み薄であった。そうなれば2003年以降、会社は存立基盤を完全に失うことになる(実際、3年後にはその通りになったのであるが)。
会社側は希望退職すれば若干の割増退職金が支払われるが、希望退職に応募せず残留を求めたとしても残留させるか否かは会社が判断すると断言した。また残留した場合も今後の業績次第では退職金の支払いすら危うくなる可能性をほのめかした。つまり全社員に希望退職を勧めた訳である。ただ会社としても180人体制を確保する必要があり、退職届には再雇用を希望するか否かの選択肢が残されていた。人事部は、再雇用を希望した者はできる限りその要望に配慮する、と口頭で付け加えた。
会社側からここまで言われると希望退職届を出す以外選択肢がないことは明らかであった。退職届の提出までわずか2週間の期限しかなかった。330人それぞれがその2週間の間でどのように決断したのか、330通りの人生模様があったはずである。そして2週間後全社員が退職届を提出、そのうちの大半は再雇用を希望したようである。330人のアラビア石油社員はともかくも退職金を確保する道を選んだ。
筆者の場合は既に書いたとおり中途採用で入社した当時は55歳定年制だったため1998年に退職金を受け取っており60歳まで雇用が継続する形であった。問題は60歳の年金支給年齢に達する2003年までの3年間をどうするかであった。人事部にそれとなく打診すると、現在の出向を継続する形での再雇用がかなえられそうであった。ただ再雇用は年俸制の1年契約であり給与は大幅にダウンする。出向先の中東協力センターではハードだがやりがいのある仕事を任されていたので、同じ程度の条件であればむしろ転籍したいと考えた。幸い上司が事情を了解し筆者は転籍することができた。当時の出向先は女性事務員以外男性職員はすべて民間企業からの出向者だけで構成されていたので筆者は唯一の男性プロパー職員となったのである。
若い社員たちは会社に見切りをつけて転職の道を選んだ。彼らはむしろ海外進出を強化しようとする企業から引っ張りだこであった。彼らは入社後徹底した英語教育を受けており、語学力の程度を示すTOEFLでも高い成績を持っていたからである。人事部は彼ら若者の再就職先の開拓に奔走した。そこでは元通産省事務次官であった小長社長の政官財界にわたる幅広い人脈が活きたようである。
経営陣のふがいなさと今回の合理化策に慨嘆或いは憤激して再雇用を潔しとしない男性社員もかなりいた。彼らに対して会社側は専門のリクルート企業と契約、そこでは履歴書の書き方から面接のノウ・ハウが教え込まれ、実際の入社面接を斡旋された。しかし彼らは既に中高年に達しており、また実務経験が募集企業のニーズとずれていたため面接に合格するのは至難の技であった。結局彼らの多くは友人知己を頼って再就職していった。
最も辛酸をなめたのは比較的年齢の高い女性の事務職員たちであった。アラビア石油は元々男尊女卑の気風が強く、女性社員はお茶くみ、コピーなど単純な事務作業しかやらせてもらえず、英語教育などの教育訓練を受ける機会すら与えられていなかったため専門職として世間に通用する能力を有する者はいなかった。汎用性がある経理の経験は転職に有利と言われるが、アラビア石油の経理は独特のシステムであり簿記、会計等が全く異なるのである。彼女たちは会社指定のリクルート企業でカウンセリングを受けたが、新たな職場は全く見つからなかった。結局彼女たちは再就職をあきらめ、老父母と同居しその世話をすることになったようである。
早々と転職できた若手社員、会社側から内々に慰留され再雇用された者或いは筆者のように出向先に転籍できた者は比較的幸運だったのかもしれない。再雇用に応募せず就職探しに翻弄された彼ら或いは彼女たちの会社に対する恨みは小さくなかったであろう。いずれにしても330人の間に大きな亀裂が生じたのは無理もない。そのことは毎年のOB会の出席者の顔ぶれに如実に表れたのである。OB会の案内は全員に送られたが一部のOBは未だに無視するか欠席を続けている。
2000年に偶々人事課に居合わせた社員の立場は複雑だったと思われる。最も強く振り回されたのは彼ら自身であろう。330人の社員たちに対して彼らは苦しい胸の内を秘めて事務的に対処しなければならなかった。自らの再就職は後回しにして彼らは他の社員の身の振り方に心を砕いた。そして彼らは最期に会社を去り、沈黙を守ったままOB会にも顔を見せない。彼らに頭が下がる思いである。
(続く)
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