(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0545DroneInMe.pdf
中東各国でドローン(drone)の開発と軍事利用が広まっている。日本でドローンといえば災害時の空中撮影、新形態の宅配等の平和的な利用を目的とし、複数の回転翼を持った無線操縦ヘリコプターを思い浮かべる。しかしドローンは本来軍事目的に開発された無人操縦機の一般的な呼称であり、欧米ではUAV(Unmanned aerial vehicle、無人飛行機)或いはUCAV(Unmanned combat aerial vehicle、無人戦闘飛行機)と呼ばれている。種類も多く、地上から電波で誘導するものから、最近ではUCAV自らが索敵し攻撃するものまで様々である。IT技術が普及した現代では高度な知識や技術が無くても安価で高性能なUCAVを作ることが可能である。この結果、中東のトルコやイランなどではUCAVの開発と生産が盛んであり、友好国・組織に軍事支援の道具として供与し、あるいは有力な輸出商品として外貨の獲得に寄与している。
イエメン内戦:サウジを脅かすイラン製UCAV
イエメンでは正統政府と反政府勢力フーシ派が激しい戦闘を繰り広げている。両者を支援しているのがサウジアラビアとイランであり、イエメン内戦は両国の代理戦争(proxy war)の様相を呈している。地上戦は政府軍とフーシ派が直接対峙し、現在はフーシ派が有利な情勢である。これに対してサウジアラビアが同盟部隊(coalition force)として米国製戦闘機F-16の空爆により政府軍地上部隊を支援している。一方、イランはUCAVをフーシ派に与え、フーシ派はこれをサウジアラビア領内への攻撃に利用している。米国製の有人戦闘機とイラン製無人UCAVがイエメンとサウジアラビアの上空を飛び交っている図式である。
イラン製UCAVのサウジ国内への飛来は最近特に顕著であり、アラムコの石油施設[1]、サウジ南部イエメン国境近くの地方中核都市AbhaやJizan空港が標的にされ人的被害も報道されている[2]。さらにイスラエルのタンカーも被害にあう[3]などイラン製UCAVの攻撃対象は拡大している。
イランを敵視する米国もUCAVによる反撃を行っている。昨年1月、イラン革命防衛隊のスレイマニ司令官が訪問先のイラクのバグダッド空港で米国のUCAVに爆殺されたことは記憶に新しい[4]。
(写真は米国のUCAV「MQ-9リーパー」)
このような中で軍事大国トルコもUCAVの開発と生産に熱心であり、シリア内戦でIS(イスラム国)勢力の攻撃に利用、IS壊滅後はシリア領内のクルド勢力掃討に使われている。同国はUCAVの輸出にも熱心である。
(続く)
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荒葉一也
[1] Drone attacks strike major Saudi Aramco facility, oilfield
2019/9/14 The Peninsula
[2] Houthi drone attack on Saudi Arabia’s Abha airport wounds 8, damages plane
https://www.arabnews.com/node/1920271/saudi-arabia
2021/8/31 Arab News
[3] Israel blames Iran over lethal attack on oil tanker off Oman
2021/7/31 Ahram Online
[4] Iran’s Gen. Soleimani killed in airstrike at Baghdad airport
2020/1/3 Arab News
https://www.arabnews.com/node/1607686/middle-east
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・需要回復とOPEC+の増産抑制でBrent原油84ドルに上昇。
(中東関連ニュース)
・イラク総選挙、329議席中で反米・反イランのサドル派が73議席獲得。
・イエメン、政府支援同盟(サウジ空軍)が1日で43回出撃。フーシ派134人死亡。
・ナイル川ダム問題、エチオピア・エジプト・スーダン間で行き詰まり状態。
・IMF、世界経済見通し:世界GDP成長率、7月発表の6%から5.9%に減速。 *
*追って本ブログで概要レポートします。
初出:2010年9月
サウジアラビアの秘かな動き(2)
「前置き抜きで用件だけ手短に話す。」父親の声がいつもより重々しい。
「先日ワシントンから申し入れがあった。今日から3日後の月曜日早朝、イスラエル戦闘機3機がイランに向かって我が王国とイラクの国境線上空を飛行するそうだ。」
イスラエルがイランの核施設を攻撃すると言う噂が世界中のマスコミをにぎわせており、トルキ王子はこれまで半信半疑であった。それがついに現実のものとして彼の前に突きつけられ、彼は緊張した。
「彼らはナタンズを狙っている。米国政府はイスラエルの攻撃を認め、我が国に対して3機の飛行を黙認しろ、と言ってきた。」
国防相は息子の動揺を無視するかのように電話の向こうで淡々と話し続けた。
「それで我々にどうしろと言うのですか?」
「国王、内相と外務大臣と俺の4人で話し合った。」
国王は国防相と二つ違いの異母兄であり、内相は国防相の実の弟である。そして外務大臣はこれも異母兄である故第三代国王の遺児、つまり甥ということになる。国防相、内相、外相はいずれも30年以上も同じポストにおり、サウジアラビアの防衛と治安と外交を握っている。それはとりもなおさずサウド王家一族の体制を守ることでもあった。
「我々は米国の要請を受け入れることにした。3機は夜明けごろお前の基地の北方を通過するはずだ。そいつらは黙って見過ごせ。」
「イスラエル機が我が領空を侵犯するかもしれないと言うのにそれを見過ごせと言うのですか? どうして撃墜しないのですか?」トルキ王子は高ぶる気持ちを抑えきれずに父親に問い返した。
彼の肩に止まっていた愛鷹「スルタン号」が思いがけない主人の大声に驚いて羽をばたつかせた。王子は自分の鷹に父親の名前をつけていた。これは敬意の意味合いと同時に、日頃頭の上がらない父親に対する彼一流の茶目っ気の意味もあった。「スルタン号」が獲物を取り逃がした時など「スルタンの役立たずめ!」とか「このろくでなし!」などと罵詈雑言を浴びせては溜飲を下げるのであった。
(続く)
荒葉一也
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・原油:コロナ禍終息、OPEC+増産抑制で2014年以来の高値。Brent $82.39, WTI $79.35。
(中東関連ニュース)
・イラン外相、ロシア訪問。ラブロス外相と協議、共同記者会見。
・イラン、濃縮度20%のウランを120Kg以上保有。170Kgあれば核弾頭可能。
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
(中東関連ニュース)
・独、IS(イスラム国)兵士のドイツ国籍妻と子供の帰国受け入れ。
10/4 JOGMEC
西豪州におけるクリーン燃料アンモニア生産を見据えたCCS共同調査の実施
http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_15_000001_00085.html
10/4 石油連盟
石油連盟会長コメント岸田 新内閣に望む
https://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2021/10/04-001948.html
10/4 OPEC
21st OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/6647.htm
10/5 JOGMEC
LNG売買における仕向地制限等実態について初の包括的調査結果
http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_08_000120.html
10/5 出光興産
アンモニアサプライチェーン構築に関するJERAおよびヤラ・インターナショナルとの共同検討について
https://www.idemitsu.com/jp/news/2021/211005_2.html
10/6 経済産業省
第10回LNG産消会議を開催しました
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211006001/20211006001.html
10/7 ENEOSホールディングス
本日の当社に関する一部報道について
https://www.hd.eneos.co.jp/newsrelease/20211007_01_01_0960492.pdf
10/7 ExxonMobil
ExxonMobil increases Stabroek resource estimate to approximately 10 billion barrels
https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2021/1007_ExxonMobil-increases-Stabroek-resource-estimate-to-approximately-10-billion-barrels
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・原油、最高値から2%下落。Brent$80.94, WTI $79.78。
(中東関連ニュース)
・レバノン:燃料確保難のため通信、インターネット数日内に途絶の恐れ。
・イエメン フーシ派、サウジAbha空港をドローン攻撃、4名負傷。
・UAE、連邦初のドル債売出し。格付けはアブダビと同じAa2。
*日立製作所HP「日立ABBパワーグリッドがサウジアラビア・エジプト間初の大規模HVDCシステムを受注」参照。
初出:2010年9月
サウジアラビアの秘かな動き(1)
基地のモスクで金曜の夜明けの礼拝を済ませた司令官トルキ王子は近くの荒野で鷹狩を楽しんでいた。ハファル・アル・バテン基地はイラクとの国境近く、ネフド砂漠の北端に位置している。砂漠の荒野にも野兎や渡り鳥など鷹の獲物は多い。鷹狩はトルキ王子のようなサウド家の王族たちのたしなみでもある。
夏の盛りとは言え早朝の砂漠はひんやりと風も心地よい。2003年にイラクのフセイン大統領が失脚するまで、この空軍基地は北の守りとして緊張した日々の連続であった。しかし解放後にイラク国内の混乱が始まってからは、国境の守りはイスラムゲリラ、アル・カイダの侵入を防ぐことや、酒・麻薬などの密輸業者を摘発することであった。それは国境警備隊、地上パトロール隊の仕事であり、空軍の出番は全くない。そのためトルキ司令官は普段から暇を持て余しており、鷹狩りは暇つぶしと言う訳である。つい今し方までは------。
突然王子の白くゆったりした民族衣装の右のポケットからコーランの一節が流れ出した。携帯電話の呼び出し音だ。左のポケットにはもう一台普通の携帯電話があるが、今鳴り出したのは軍及び内務省幹部専用の携帯電話である。軍及び内務省幹部と言ってもここサウジアラビアでは大臣以下殆どがサウド家の王子で占められている。しかも彼らは一族の中でも特に血のつながりが濃い王子たちである。例えば国防大臣がトルキ司令官の父親であるように。
「ああ、父上、何かあったのですか?」王子は育ちの良さそのままの明るく屈託のない声で電話に答えた。電話の相手が国防大臣と知った部下達の顔に一瞬緊張が走る。国防大臣は初代国王の15番目の息子であり、また先代国王の実弟でもある。初代国王は多数の王妃を娶り30数人の息子をもうけたが、彼の死後はその息子達がほぼ年齢順に王位を継承している。国防大臣の母親はトルキ王子の父親を含め7人の息子を生んだが、彼ら7人兄弟は結束を固め他の異母兄弟と張り合ってきた。特に長兄が国王として長期政権を確立する過程で弟達を政府の要職に引き上げた結果、彼ら7人兄弟はサウド家の中で確固たる地位を築き上げたのである。
(続く)
荒葉一也
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・OPEC+閣僚会合、減産緩和政策継続で合意。11月も40万B/D増産。 *
*「UAEの反乱で流会になったOPEC+(プラス)会合」(2021年7月)参照。
・OPEC+決議を好感、Brent原油3年ぶりの高値80ドルに。
・サウジアラムコCEO:2027年までに原油生産能力1,300万B/Dに引き上げ。
(中東関連ニュース)
・エジプト、ロシア両外相モスクワ会談。シリア、リビア問題で意見交換。
・ヨルダン王室、「パンドラ・ペーパー」指摘の国王疑惑を否定。
・カタール国政選挙、女性当選者ゼロに失望感。首長選出枠15名に望みつなぐ。
・イランの平均寿命、1976年の57歳が現在は76歳。15歳以下の人口は23%。