Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『読まない力』

2010-03-03 12:40:31 | 読書。
読書。
『読まない力』 養老孟司
を読んだ。

第二章以降、雑誌で連載していた、
800字~1000字くらいなのかな、
短い時事のエッセイをまとめた本でした。
そのくらいの分量ではたいしたことは
言えていないんだろうとお思いのあなた!
無駄のない主張にガツンとやられること請け合いです。

養老さんって文章が下手なのかなぁ、なんて思い、
さらに養老さんの理屈は屁理屈めいているなぁと、
これまで思っていたんだけれど、今回読んでみて、
それはアナロジーのせいだったんだなぁと、ほんのり理解した。
文と文のリンクの仕方が、どこか飛んでる感じなのも、
読みなおしたり、なれてきたりするとわかるようになります。
そういったところは独特なんでしょう。

内容もまえがきからしてやられてしまいます。
「巧言令色鮮仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」という孔子の
言葉が引きあいにだされて、「口でうまいことを言うヤツなんて、信用できないよ」
という意味だと語られる。
痛いところですね。
文章がうまくなりたいとか、もっといろいろしゃべれるようになりたいとか
常日頃考えていますが、そういうのは人として枝葉末節な部分で、
大事にすべきところではないのだなぁ。とはいえ、プロの人とかは、
そういった枝の部分も、考えや独創性などの幹の部分も
しっかりしていたりするんだろう。
言葉を使った表現力って、なんぞや?って思ってしまいますね。
日本におけるユング派心理療法のパイオニアで文化庁長官も務められた
故・河合隼雄さんが、まじめになると「私はウソしかいいません」と
きっぱりと言われたという話も載っています。
「ウソしかいわない」というのは、じゃ、その発言はウソなのか本当なのかという
矛盾を含んだものですが、だから河合さんは、言葉なんてその程度のものですよ、
みたいなことを言っておられたということらしいんです。
ここでも、小手先の言葉じゃなくて、人としての幹を育てることの
大事さを感じさせられます。

まえがきでも十分勉強になるのに、他にもいろいろなエッセイが盛りだくさん。
簡潔で平易な物言いなのに、深みがあって、
知識人で識者の養老さんと対話しているような読書感覚を覚えました。
とはいっても、読み手はあたりまえですがうなづくばかりですけどね。
でも、こうやって文章にすることで、アウトプットに頭を使っているのだから
少しはましなのかもしれないです。

こうやってブログを書くことにも、
あんまりサラサラっと書いてしまうのは
なんの経験にも、思索にもならないですね。
そこのところを頭の片隅に置きつつ、
自分の幹を鍛えることができるような記事を書けたらいいなぁ。

そうそう、日本が軍隊を持つことについての論説があるのですが、
そこで、国家としては武士道の精神が必要になるみたいなのがあるんです。
そこのところ、以前に読んだ北大の社会心理学者の山岸俊男さんの
『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』の主張とぶつかるところだったのが
興味深かったですね。武士道を可にするも不可にするも、帯に短したすきに長しな
印象をうけるんですよねぇ。とはいえ、統治の論理である武士道は、
きたるべき信頼社会をもたらす商人の論理とは相いれないと言われています。
これは山岸さんの主張なんですがね。でも、そこのところ、ちょっと山岸さんの
話は精彩に欠いているようにも読めるのです。信頼社会の欧米だって、統治の論理に
属する「二枚舌」を使ったりするじゃないかって。
どうも、どちらにしても、なんでもありじゃいけないっていう風潮なんですが、
僕が育ってきた中で感じてきた自由というのが、
そもそもなんでもありなイメージだったりするんですよねぇ。
考え直せということなのか。

そんな、いろいろ考えさせられて、
内容をつぶさに覚えておきたくなるような本でした。
養老さんは今年で73歳。もっと長生きしてほしいですねー。
Comments (2)
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