休日の朝、玄関のチャイムが鳴り、てっきり宅配便かと思ってインターホンに出てみると、お隣の家の奥さんだった。
奥さんの声が、えらく慌てている。
「隣の〇〇ですっ!○▼※△☆▲※◎!!・・・なので、だんなさんいますか?」
いろいろと何かおっしゃっていたが、慌てているため何を言っているのか聞き取れず、二回ほど聞き返して「夫に用事があるんだな」ということだけは理解できた。
とにかくかなり動揺しているご様子。
これはただ事ではないと、急いで玄関のドアを開けると、お隣の奥さんがアワアワした状態で立っていた。
「へび、へびがいるんですっ!!」と青ざめた顔でおっしゃった。
「えっ、どこに?」と聞くと、「車の中!私の車の中にいるんです!だんなさんに蛇を出してもらえませんか?」という。
窓もドアも閉まっていた車の中に蛇ってありえない・・・(猫が入るのは聞いたことがあるので、ありえることなのかもしれないが)
ただならぬ気配を察した夫も、すでに玄関にいて一緒に話を聞いていた。
話を聞いた夫は「車の中に蛇ですか」と言って絶句した。
夫は犬や猫など動物全般が苦手で、向かい側から犬を散歩させた人が歩いてくると、すぐに避けて反対側の道へ渡るほど。
犬は噛むものだと思っているので、絶対にそばには近寄らない・・というか近寄れない。
犬猫を見たら、駆け寄って行っても触らずにはいられない私とは正反対なのだが、ペットの大人しいワンコでさえ苦手なら、蛇なんてもう絶対に無理でしょうと思った。
ところが、意外にも夫は「蛇ですか、行きましょう」と言ったのだ。
これには驚いた!
さすがにお隣の奥さんの前で「怖いから無理です」とは言えなかったようだ。
毒のあるマムシだった場合を想定して長靴に履き替えた夫は、園芸用の長い棒を持って、さっそくお隣りさんの車へ向かった。
私も恐る恐る車の中を覗いてみたのだが、なんと長さ1メートルほどの蛇が、運転席前のダッシュボードの上に居た!
お隣の奥さんの話によると、出かけようと思って運転席に座ったら目の前に蛇がいたので、転がるように車を降りて、助けを求めて我が家へ来たのだそうだ。
どんなに驚いたことだろう。私なら気を失う、、、
でも運転中じゃなくてよかった。運転中に蛇が出てきたら、驚いて事故だってあり得る。
夫は早速、棒を蛇の下に入れて出そうとしたのだが、蛇も身の危険を感じたのか、にょろにょろと移動すると、ハンドルの下にある隙間へ入って見えなくなってしまった。
そこで今度はボンネットを開けて蛇を出そうとしたのだが、どこにいるのか蛇が見つからない。
三人でしばらく探したのだが見つからないので、このまま静かにして蛇が自分で出て行くのを待つことにした。
お隣さんは、もうしばらく車は使わないそうだ。
「あの蛇、毒蛇じゃないでしょうか?」と奥さんに聞かれた。
「マムシじゃなかったので、毒蛇ではないと思います」と言うと、「それなら火ばさみでつかんで出せますね。毒蛇じゃないのなら、私もできそうです」とおっしゃった。
それを聞いて「火ばさみでつかめるんかーーい!」とは、夫と私が同時に思ったことで、火ばさみの長さってせいぜい50センチくらいのものではないのだろうか。
ありえない・・・そんな至近距離で蛇をつかむなんてありえない。
お隣の奥さんはすごい!と尊敬してしまった。
というわけで、車に乗る時は、必ず蛇が先に乗っていないかを確認するようになった。
ありえないと思っていたけど、あり得ることもあるかもしれないという教訓だった。