元・お姑さんの部屋で、今は夫の書斎になっている部屋にパソコンがあるため、時々そこでパソコンをしている。
先日もパソコンをしていたら、とつぜん部屋の中でかすかな声が聞こえてきた。
女の人の声で何かずっとしゃべり続けている。
パソコンのキーを打つ手を止めて耳を澄ました。
おばあちゃんの声!?
それは紛れもなくお姑さんが読経する声だった。
慌てて仏間を覗いてみたが、そこにある仏壇の前には当然だれもいない。
どこから声が聞こえてくるのか部屋中を見渡してもわからなかった。
お姑さんは朝夕に、時には昼間も、毎日欠かさず仏壇の前に座って読経していた。
だから施設に入る時には、部屋に置けるように小さな仏壇をあらたに買ったほどで、施設でも毎日お経を読んでいると聞いていた。
それはお姑さんが幼いころからの習慣だそうで、同居してからいつも聞いていたお姑さんのお経を読む声に間違いなかった。
それにしても何故、声がしているのだろうか。
お姑さんに何かあったのだろうか?いや、それはないだろう(そんな気がした)
じゃあ生き霊とか?でも、それほどこの家に執着があったとは思えないし。
それともお姑さんが居た頃の残留思念みたいなものなのだろうか?
いやいや、これは私の幻聴だったりして。それにしてもはっきりと聞こえる・・・
あれこれ考えながら、止むことなく聞こえてくるお姑さんの読経する声を不思議な想いでしばらく聞いていた。
しかし、このままお姑さんの読経を聞いているわけにもいかないので、パソコンを止めて部屋をあとにした。
部屋を出ると声は聞こえず、それからしばらくして部屋に戻ってみたが、声はもう聞こえなくなっていた。
不思議なことがあるものだと思う。
さてお姑さんだが、あれから再び夜中に徘徊をして、入所している方々に迷惑をかけるようになった為、急遽、病院へ入院することになった。
入院しながら次の受け入れ先が決まるのを待つことになったのだが、容体が悪化の一途をたどっている為、次の施設が決まっても行けるかどうかわからなくなってきた。
入院した時はすこし歩けていたのだが、今は本当に寝たきりになってしまったし、それ以上に問題なのは、まったく食事を摂らなくなったことで、現在は点滴による栄養補給をしている。
また看護師さんによると、お姑さんは昼夜逆転して昼間はずっと寝ていて、夜になると目を覚ましているのだとか。
しかし目を覚ましても前のように徘徊する元気はなくて「夜中ベッドに横たわったまま、なにかお経みたいなものをずっとつぶやいています」とのことだった。
それを聞いて、自分の子どものことも忘れてしまったが、お経だけは最後まで頭の中に残っているのだなぁと思い、なんだか複雑な気持ちがした。
実は一緒に暮らしている時、お姑さんの読経はあまりよい気持ちがしなかった。
お供えの食べ物がずっと長く置かれている仏壇の前でお姑さんがお経を読むと、外から無成仏霊が入ってくるような気がした。(気のせいかもしれないが・・・)
また義父の三回忌でお寺に行った時、お坊さんが読経している最中に(不成仏霊に)肩にずしんと乗られて以来、お経に対してよい印象がない。
お経を聞いても成仏できないんだ・・・と思ったというかのか、なんというか。
お経のことは全く知らないので、他のお経は違うのかもしれない。これは私の偏見なのかもしれないが・・・
お姑さんは、もう私が行っても誰なのかわからないだろうと思う。
今は気がつけば、お姑さんに向けて暖かい気持ちを送るようにしている。
離れた場所や会う会わない関係なく、想いは通じるという確信・・・お姑さんの声が聞こえたように、私の想いも届け。