この度は『肥後の城』 ご恵贈賜り有難う御座いました。
句集全体を読ませて頂いて、お会いした印象以上に満徳様の人となり、人生が表れていて、好きな句を見つけて付箋を貼るごとにどんどん親しくなれるような嬉しさがありました。
まやさんが、帯文に書かれていたように熱情を十七音からわたしも感じ、更に阿蘇に潜むマグマのような熱き血潮が句の隅々まで届いていると感銘しました。
中でも、五感を生かして日常をさらりと詠んだ発見の句や、美しい景色を詠まれた句の調べもよく「花筏鯉の尾鰭に崩れけり」の格調高さ、「かたつむりなにがなんでもゆくつもり」の平仮名遣いの斬新さ、「コスモスの揺れては空の蒼ざむる」の詩情、特に「芒原けものになつて駆けようか」が好きでした。 本能の中の野性が目覚める瞬間、少年のような目をした作者が生き生きと想像力を芒野原に駆け巡らすそんな印象を受けました。 「むごかぞと兄の一言雨出水」のむごかぞとは方言でしょうか?「酷いぞ」みたいな意味に取りました。 他に惹かれた句を挙げて御礼と代えさせて頂きます。 益々のご活躍をお祈りいたします。
辻村麻乃・「篠」主宰
肥後の城 永田満徳句集より
さへづりの粒立ちて来る力石
衣擦れのして運ばるる夏料理
月光や阿蘇のそこひの千枚田
風あればさすらふ心地ゑのこ草
冬籠あれこれ繋ぐコンセント
生垣に鳩潜り込む雨水かな
熊蟬のここぞとばかり鳴きはじむ
象の鼻地に垂れてゐる残暑かな
曲りても曲りても花肥後の城
夏蒲団地震の伝はる背骨かな
紫陽花や壊れしままの道祖神
ばさばさの鷄の胸肉夏の風邪
宵闇を誘ひだしたる踊かな
庭一杯菊を咲かせて老いにけり
春の雪いづれの過去のひとひらか
我もまた闇のひとつや螢舞ふ
大阿蘇の地霊鎮むる泉かな
街の灯の一つに我が家秋の暮
一条のひかりの鮎を釣りにけり
菖蒲湯に沈み明日をうたがはず
ゆつたりと波打ちてをり月見舟
寒日和窓てふ窓に阿蘇五岳