【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会会長代行 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「火神」主宰 「俳句大学」学長 「Haïku Column」代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

第二句集『肥後の城』を読む・辻村麻乃

2021年11月02日 23時14分29秒 | 第二句集『肥後の城』

この度は『肥後の城』 ご恵贈賜り有難う御座いました。

句集全体を読ませて頂いて、お会いした印象以上に満徳様の人となり、人生が表れていて、好きな句を見つけて付箋を貼るごとにどんどん親しくなれるような嬉しさがありました。 

まやさんが、帯文に書かれていたように熱情を十七音からわたしも感じ、更に阿蘇に潜むマグマのような熱き血潮が句の隅々まで届いていると感銘しました。 

中でも、五感を生かして日常をさらりと詠んだ発見の句や、美しい景色を詠まれた句の調べもよく「花筏鯉の尾鰭に崩れけり」の格調高さ、「かたつむりなにがなんでもゆくつもり」の平仮名遣いの斬新さ、「コスモスの揺れては空の蒼ざむる」の詩情、特に「芒原けものになつて駆けようか」が好きでした。 本能の中の野性が目覚める瞬間、少年のような目をした作者が生き生きと想像力を芒野原に駆け巡らすそんな印象を受けました。 「むごかぞと兄の一言雨出水」のむごかぞとは方言でしょうか?「酷いぞ」みたいな意味に取りました。 他に惹かれた句を挙げて御礼と代えさせて頂きます。 益々のご活躍をお祈りいたします。            

辻村麻乃・「篠」主宰

肥後の城 永田満徳句集より

さへづりの粒立ちて来る力石

衣擦れのして運ばるる夏料理

月光や阿蘇のそこひの千枚田

風あればさすらふ心地ゑのこ草

冬籠あれこれ繋ぐコンセント

生垣に鳩潜り込む雨水かな

熊蟬のここぞとばかり鳴きはじむ

象の鼻地に垂れてゐる残暑かな

曲りても曲りても花肥後の城

夏蒲団地震の伝はる背骨かな

紫陽花や壊れしままの道祖神

ばさばさの鷄の胸肉夏の風邪

宵闇を誘ひだしたる踊かな

庭一杯菊を咲かせて老いにけり

春の雪いづれの過去のひとひらか

我もまた闇のひとつや螢舞ふ

大阿蘇の地霊鎮むる泉かな

街の灯の一つに我が家秋の暮

一条のひかりの鮎を釣りにけり

菖蒲湯に沈み明日をうたがはず

ゆつたりと波打ちてをり月見舟

寒日和窓てふ窓に阿蘇五岳

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第二句集『肥後の城』を読む・仙田洋子

2021年11月02日 21時35分00秒 | 第二句集『肥後の城』
「俳句大学」学長、永田満徳さんより、第二句集『肥後の城』をいただきました。どうもありがとうございました。
大地震、集中豪雨で甚大な被害を受けた熊本県への思い。雄大な阿蘇への思い。帯文でも、奥坂まやさんが「この句集は、傷ついた故山に捧げる、ひたむきな思いの披瀝に他ならない」と書いておられます。
 
  月光や阿蘇のそこひの千枚田
  天草のとろりと暮れぬ濁り酒(とろりと、がいいですね)
  春の夜やあるかなきかの地震に酔ふ
       (あるかなきかの、がうまい!と思いました)
  夏蒲団地震の伝はる背骨かな
  本震のあとの空白夏つばめ
  阿蘇越ゆる春満月を迎へけり
  大阿蘇の地霊鎮むる泉かな
  ぱつくりと二百十日の噴火口
  秋雲を束ねてゐたる阿蘇五岳
  水源は阿蘇の峰々通し鴨
  大阿蘇を踏石として月昇る
  むごかぞと兄の一言梅雨出水
 
しかしながら、この句集は故郷への思いだけではなく、多彩な面を持っています。
例えば、次のようなユーモアに満ちた句を見逃すわけにはいきません。
 
  髭剃りて髭残りたる師走かな
  あめんぼのながれながれてもどりけり
  象の鼻地に垂れてゐる残暑かな
  荒梅雨や呵呵大笑の喉仏
  昼寝覚われに目のあり手足あり
  どら焼きの一個をあます暮春かな
  扇風機語り掛けたくなるときも
  追はざれば振り返る猫漱石忌
  声大き人来て揃ふ四日かな
  春筍の目覚めぬままに掘られけり
  立秋やどの神となく手を合はす
  葉牡丹の客より多く並びをり
  うららかや豚はしつぽを振りつづけ
  大鯰口よりおうと浮かびけり
 
次のような詩情溢れる句も見受けられます。
 
  春の雪いづれの過去のひとひらか
  コスモスの揺れては空の蒼ざむる
  一条のひかりの鮎を釣りにけり
  とんばうの骸は風となりにけり
  芒原けものになつて駆けようか
 
対象をとらえる感覚の確かさにも瞠目しました。
 
  衣擦れのして運ばるる夏料理
  どんどの火灰になるまで息づけり
  城下町みづうみのごと霞みけり
  掛声の空に伸びゆく秋祭
  青潮にこぼるる万の椿かな
  一振りの音の確かな種袋
  身ほとりに煙のごとき春蚊かな
  ペンギンのつんのめりゆく寒さかな
  てふてふのくんづほぐれつもつれざる
         (平仮名がユーモアも生んでいますね)
 
そして人生諷詠や家族を思う温かい句も。
  
  制服をどさりと脱ぐや卒業子
  母のあと追ふごと銀杏落葉舞ふ
  そこここに父の足音栗拾ふ
  街の灯の一つに我が家秋の暮
  墓守といふ生涯や冬日向
  炭つぐや後ろ楯なき立志伝
  薩摩芋ほかつと割つて昭和の日
  今は亡き犬の首輪や日脚伸ぶ
 
機会がありましたら、秋の夜長にご一読を!
 
仙田洋子
 
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