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それは中央線荻窪駅周辺の路上の風景である。----手巻煙草器売りの若い男は、まっくろで愛嬌のない顔を崩さず、一日じゅう座ったきり。
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日暮れに台を片付けて帰るとき、周辺の人たちの表情にも屈託が湧くようで、一日じゅうつまらなさそうな感じの手巻煙草器の若い男さえ、そそくさと肩をすぼめて帰っていくようだった。
ときどき、区役所の車がきて、我々は皆、列をつくり、DDTの白い粉を全身に浴びせられる。飴屋の爺さんは我々の肩を叩いて、なぁ、皆、飴になったみたいだ、といってよろこんだ。
[ken] 戦後の風景について、私は映画やテレビでしか知りません。また、たばこの一本売りに関しては、フィリッピンを観光旅行したとき、成年男子が交差点で停車中の観光客を相手に、しつこく売りつけようとしていた景色しか知りません。日本の戦後、「手巻きたばこ」の路地販売があったことは、本書で初めて知りました。DDTについては、小学生の頃にそのようなことがあったかな、という程度のあやふやな記憶です。手巻きたばこ売り男性から、戦後の虚無感や自暴自棄の感情が、切々と伝わってきました。(つづく)