今年のM-1は久しぶりのクリスマス・イブ決戦。出場組の中、最年少の令和ロマンが見事優勝。トップバッターからの優勝は第1回の中川家以来だそうだ。関西人の私は、初審査員のともこ姉ちゃんにもドキドキしながらイブの夜を楽しんだ。
ではいつものように、ネタ順にコメント。
■令和ロマン
昨年の敗者復活で見たときにインパクトがあり「今後期待できるコンビだな」と思っていた。トップバッターだが、登場のときからボケて、ツカミもケムリのもみあげをいじり、会場の空気を一気に温めた。漫画やドラマでありがちな、女子高生が登校時に転校生と角でぶつかるシチュエーションについて「角でぶつかるということはお互い違う方向に走ってたということ」というセリフが「なるほど。面白くなりそう」と感じさせた。後半ちょっと笑いが少なかったが、全員90点以上は立派。
最終決戦のネタも一本目同様、手数が多いパワフルな漫才。審査員投票では4票対3票でヤーレンズを振り切り、見事優勝。最後は一人ずつ投票結果が入れ替わっていくというスリリングな展開。今年もM-1に笑いとバラエティの神様が降りてきた。
■シシガシラ
敗者復活組が2番目に登場。昭和の香りがするゆったりとしたしゃべくり漫才。本人たちの緊張が画面からも伝わってくる。「今どきは、看護婦は看護師、スチュワーデスはキャビンアテンダントと言わなければならない」といったやりとりは、昨今、人権やLGBTなどに意識が高まっている観客が聞くと、少し窮屈な感じがする。私なんかは「ん?そもそもこういうのを漫才のネタにしてもいいのかな!?」と邪念が入り、ネタに集中できなかった。まだ見ていないが、敗者復活戦は、決勝とは違うネタで相当面白かったらしい。できればそっちをやってほしかった。
■さや香
前回準優勝で、今回も優勝候補の筆頭。テンポも良かったが、まだ3組目で会場の空気が十分に練られていないのか、それほど笑いが起きない。彼らも自分たちがウケるだろうと思っていたキラーフレーズでドカンといかないので、新山が相当大声を張り上げ「面白い感じの空気」に持っていった。結果はファーストラウンドは1位だが、「これで1位だとすると、今大会はそれほどレベルは高くないな」と思ってしまった。最終決戦、四則演算を言葉や気持ちで表現する「見せ算」という相当攻めたネタ。はっきり言って、難解で付いていけなかった。山田邦子が表彰の時に「面白くなかった」と(愛のある)酷評をしたがその通り。さや香ならもっとふさわしいネタがあっただろう。自爆である。
■カベポスター
昨年がトップバッターで不利を被ったが、今年は5番目と良い順番だ。校長先生と音楽の先生の不倫を題材に、話が上手く展開していくカベポスターらしい緻密なネタだ。伏線の回収もしっかりしていて、非常に面白いと思ったが、ネタの密度に比べて、さや香同様、少し笑いが少ない。かといって新山のようにいきなり大声を張り上げて空気を変えるという芸風ではない。そんな焦りからか、最後浜田が「ドロドロやないか」の締めのツッコミを思いっきり噛んでしまった。ただそこはご愛敬。審査員もそこをあげつらって、点数を低くすることはなかったようだ。それでも彼らの普段のパフォーマンスからすると全体的に低調である。十分にチャンピオンを狙える逸材だけに来年も頑張ってほしい。
■マユリカ
今年4月に大阪から東京に拠点を移した。私は大阪時代から評価していたが、同じタイミングで東京進出した紅しょうがは先日の「THE W」で優勝。ニッポンの社長はKOCで決勝常連と、着実に全国区になっていく中で少し遅れを取っているイメージだった。キャイーンやサンドイッチマンような微笑ましい仲の良さではなく、気持ち悪い仲の良さをウリにしている。これまでのコンビにはない新しいポジションを確立した。漫才は彼らの持ち味が出て面白かったが、上位3組に入るほどではない。中谷は大声を張り上げるだけでなく、もう少しツッコミのバリエーションやワードセンスが欲しい。平場のトークは上手いし、来年はさらに売れるだろう。
■ヤーレンズ
初めて観た。上手いね、素晴らしい。テンポ、ボケの言葉の切れ、ボケとツッコミのバランス、すべて良い。かまいたちがYouTubeで「インディアンスのような手数の多さだった」と褒めていたが、私は、インディアンスより上、この手のコント漫才だと、すでにテンダラー級だと思った。決勝のネタも 令和ロマンに一票差で敗れたが、私ならヤーレンスに入れていた。事務所はケイダッシュステージだが、吉本興業のように常設のステージなどはないだろう。もっと舞台を見たい。また(本人たちが望んでいるかどうかは別として)TVで売れるための平場のトーク力や対応力も興味がある。今回、彼らを見られたのが一番の収穫である。
■真空ジェシカ
すっかりM-1決勝の常連組。舞台も堂々としている。これまでの彼らはインテリジェンス溢れる言葉のボケを脈絡なくどんどん出していくネタが多かった。今回は、「映画館」という言葉を「A画館、B画館、…Z(ズィー)画館」などと、ナンセンスなランク付けをしていくという、持前のワードセンスをベースに、一本筋を通した構成で、従来より進化していると感じた。結果は5位、マユリカが4位だったが、こんなもんかな。最終決戦進出の上位3組に入るのなら、中後半からもう少し爆発が欲しかった。
■ダンビラムーチョ
初めて漫才を見た。歌ネタで、バンプ・オブ・チキンの『天体観測』を最初のボケに持ってきた。私はこの曲が好きで、前奏が長いのを知っている。彼らが前奏を口マネでやり始めたとき「まさか、最初からやるんか」と嫌な予感がしたが、結局フルにやった。途中、歌の中でボケたり、ツッコミで流れを変化させたりしないと、単調な空気が続くだけだった。『天体観測』が終わってからも、観てるこちらに疲労感が残り、最後まで入り込めなかった。4分間の使い方を研究してほしい。
■くらげ
初めて漫才を見た。ボケがある事柄(例:サーティワン)に関する言葉(好きなアイス)を思い出せなくて、ツッコミがひたすら思いつく言葉(サーティワンのメニュー)を連呼する。でもどれも違って、実はボケが思っていたのは別の事柄(ハーゲンダッツ)だった、という構成。「ミルクボーイの変化版」みたいに思っていたら、松ちゃんも講評で同じことを言っていた。ただこの漫才の難点は、ツッコミが候補の言葉を連呼する中で、その言葉は本当に存在するものでなければならないところ。面白いウソや架空のものを挟み込むのが非常に難しい。なのでドカンという笑いが起きにくいのである。もうちょい工夫シロがあるんだろうなあ。新しいパターンを持ってきたのは評価できる。
■モグライダー
全体的に低調な空気の中で、最後がモグライダーというのは非常に期待した。私は彼らが好きだし、会場の空気を全部回収する、みたいな感じになればいいなあと思っていた。『空に太陽がある限り』題材に、2年前の『さそり座の女』のオマージュのようなネタだったが、歌のフレーズ毎に入れる合いの手の言葉が長すぎて、かなり早口で言わないと尺が合わない。芝はここでともしげがあたふたして、笑いが起きるという計算をしていたようだが、なんとなく言えている感じだった。それでも、ともしげの活舌が悪いので観衆に伝わり切れず、中途半端になってしまった。審査の時の芝の「ともしげの面白さを出すために、わざとぶっつけ本番で臨んだ」というコメントに「すげー勝負師」と思ったが、松ちゃんは「練習不足」と一刀両断。どっちのやり方が正しいんだろう。
以上、56歳にもなってこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。
ではいつものように、ネタ順にコメント。
■令和ロマン
昨年の敗者復活で見たときにインパクトがあり「今後期待できるコンビだな」と思っていた。トップバッターだが、登場のときからボケて、ツカミもケムリのもみあげをいじり、会場の空気を一気に温めた。漫画やドラマでありがちな、女子高生が登校時に転校生と角でぶつかるシチュエーションについて「角でぶつかるということはお互い違う方向に走ってたということ」というセリフが「なるほど。面白くなりそう」と感じさせた。後半ちょっと笑いが少なかったが、全員90点以上は立派。
最終決戦のネタも一本目同様、手数が多いパワフルな漫才。審査員投票では4票対3票でヤーレンズを振り切り、見事優勝。最後は一人ずつ投票結果が入れ替わっていくというスリリングな展開。今年もM-1に笑いとバラエティの神様が降りてきた。
■シシガシラ
敗者復活組が2番目に登場。昭和の香りがするゆったりとしたしゃべくり漫才。本人たちの緊張が画面からも伝わってくる。「今どきは、看護婦は看護師、スチュワーデスはキャビンアテンダントと言わなければならない」といったやりとりは、昨今、人権やLGBTなどに意識が高まっている観客が聞くと、少し窮屈な感じがする。私なんかは「ん?そもそもこういうのを漫才のネタにしてもいいのかな!?」と邪念が入り、ネタに集中できなかった。まだ見ていないが、敗者復活戦は、決勝とは違うネタで相当面白かったらしい。できればそっちをやってほしかった。
■さや香
前回準優勝で、今回も優勝候補の筆頭。テンポも良かったが、まだ3組目で会場の空気が十分に練られていないのか、それほど笑いが起きない。彼らも自分たちがウケるだろうと思っていたキラーフレーズでドカンといかないので、新山が相当大声を張り上げ「面白い感じの空気」に持っていった。結果はファーストラウンドは1位だが、「これで1位だとすると、今大会はそれほどレベルは高くないな」と思ってしまった。最終決戦、四則演算を言葉や気持ちで表現する「見せ算」という相当攻めたネタ。はっきり言って、難解で付いていけなかった。山田邦子が表彰の時に「面白くなかった」と(愛のある)酷評をしたがその通り。さや香ならもっとふさわしいネタがあっただろう。自爆である。
■カベポスター
昨年がトップバッターで不利を被ったが、今年は5番目と良い順番だ。校長先生と音楽の先生の不倫を題材に、話が上手く展開していくカベポスターらしい緻密なネタだ。伏線の回収もしっかりしていて、非常に面白いと思ったが、ネタの密度に比べて、さや香同様、少し笑いが少ない。かといって新山のようにいきなり大声を張り上げて空気を変えるという芸風ではない。そんな焦りからか、最後浜田が「ドロドロやないか」の締めのツッコミを思いっきり噛んでしまった。ただそこはご愛敬。審査員もそこをあげつらって、点数を低くすることはなかったようだ。それでも彼らの普段のパフォーマンスからすると全体的に低調である。十分にチャンピオンを狙える逸材だけに来年も頑張ってほしい。
■マユリカ
今年4月に大阪から東京に拠点を移した。私は大阪時代から評価していたが、同じタイミングで東京進出した紅しょうがは先日の「THE W」で優勝。ニッポンの社長はKOCで決勝常連と、着実に全国区になっていく中で少し遅れを取っているイメージだった。キャイーンやサンドイッチマンような微笑ましい仲の良さではなく、気持ち悪い仲の良さをウリにしている。これまでのコンビにはない新しいポジションを確立した。漫才は彼らの持ち味が出て面白かったが、上位3組に入るほどではない。中谷は大声を張り上げるだけでなく、もう少しツッコミのバリエーションやワードセンスが欲しい。平場のトークは上手いし、来年はさらに売れるだろう。
■ヤーレンズ
初めて観た。上手いね、素晴らしい。テンポ、ボケの言葉の切れ、ボケとツッコミのバランス、すべて良い。かまいたちがYouTubeで「インディアンスのような手数の多さだった」と褒めていたが、私は、インディアンスより上、この手のコント漫才だと、すでにテンダラー級だと思った。決勝のネタも 令和ロマンに一票差で敗れたが、私ならヤーレンスに入れていた。事務所はケイダッシュステージだが、吉本興業のように常設のステージなどはないだろう。もっと舞台を見たい。また(本人たちが望んでいるかどうかは別として)TVで売れるための平場のトーク力や対応力も興味がある。今回、彼らを見られたのが一番の収穫である。
■真空ジェシカ
すっかりM-1決勝の常連組。舞台も堂々としている。これまでの彼らはインテリジェンス溢れる言葉のボケを脈絡なくどんどん出していくネタが多かった。今回は、「映画館」という言葉を「A画館、B画館、…Z(ズィー)画館」などと、ナンセンスなランク付けをしていくという、持前のワードセンスをベースに、一本筋を通した構成で、従来より進化していると感じた。結果は5位、マユリカが4位だったが、こんなもんかな。最終決戦進出の上位3組に入るのなら、中後半からもう少し爆発が欲しかった。
■ダンビラムーチョ
初めて漫才を見た。歌ネタで、バンプ・オブ・チキンの『天体観測』を最初のボケに持ってきた。私はこの曲が好きで、前奏が長いのを知っている。彼らが前奏を口マネでやり始めたとき「まさか、最初からやるんか」と嫌な予感がしたが、結局フルにやった。途中、歌の中でボケたり、ツッコミで流れを変化させたりしないと、単調な空気が続くだけだった。『天体観測』が終わってからも、観てるこちらに疲労感が残り、最後まで入り込めなかった。4分間の使い方を研究してほしい。
■くらげ
初めて漫才を見た。ボケがある事柄(例:サーティワン)に関する言葉(好きなアイス)を思い出せなくて、ツッコミがひたすら思いつく言葉(サーティワンのメニュー)を連呼する。でもどれも違って、実はボケが思っていたのは別の事柄(ハーゲンダッツ)だった、という構成。「ミルクボーイの変化版」みたいに思っていたら、松ちゃんも講評で同じことを言っていた。ただこの漫才の難点は、ツッコミが候補の言葉を連呼する中で、その言葉は本当に存在するものでなければならないところ。面白いウソや架空のものを挟み込むのが非常に難しい。なのでドカンという笑いが起きにくいのである。もうちょい工夫シロがあるんだろうなあ。新しいパターンを持ってきたのは評価できる。
■モグライダー
全体的に低調な空気の中で、最後がモグライダーというのは非常に期待した。私は彼らが好きだし、会場の空気を全部回収する、みたいな感じになればいいなあと思っていた。『空に太陽がある限り』題材に、2年前の『さそり座の女』のオマージュのようなネタだったが、歌のフレーズ毎に入れる合いの手の言葉が長すぎて、かなり早口で言わないと尺が合わない。芝はここでともしげがあたふたして、笑いが起きるという計算をしていたようだが、なんとなく言えている感じだった。それでも、ともしげの活舌が悪いので観衆に伝わり切れず、中途半端になってしまった。審査の時の芝の「ともしげの面白さを出すために、わざとぶっつけ本番で臨んだ」というコメントに「すげー勝負師」と思ったが、松ちゃんは「練習不足」と一刀両断。どっちのやり方が正しいんだろう。
以上、56歳にもなってこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。
まあ、今年はさや香が2本目、勝手にこけましたね。でも、最近全体的に優等生的にM1に挑んでるコンビが多い気がする中で、(あかんの分かってて)あのネタで行くあたりは、えーやん、と思ってしまいました。
来年も期待しております!
令和ロマンの時はものすごい笑いで、ええ空気やなと思ってたんですが。
このM-1評も何年続いているんやろ!?
ちゃんと評価できると自分で思うかぎりやっていきます!