◇ 『迷惑旅行』 著者: 山口 瞳 1983・2 新潮社 刊
図書館でふと眼についた一冊の本『迷惑旅行』。著者は山口 瞳とある。ページをめくるより前に口絵が眼に
入った。一枚の写真と4枚の絵がある。もちろん表紙も山口氏の作品。どうやら我が敬愛する山口 瞳氏は水
彩画を描くことを趣味としておられたようで、何か一段と親近感を深めた。
何しろ酒好きの氏のこと、旅に出る前の駅頭からすでにビールを飲んで、さらに車中ではビール、日本酒、
ウィスキーと買い込んで、食堂車があればそこでも何か食べながら呑む。もちろん宿でも飲む。二人で一晩徳
利30本を越える酒豪であり驚くしまた羨ましい。
『迷惑旅行』という本の題名の由来といえば、本書冒頭に書いてある。
「逢いたい人に逢いにゆく、情けの出湯にとっぷりつかる。思い出を絵にかいてくる ― 旅の私に押しかけられる
地元は迷惑でしょう。歓迎ぜめのこちらとしても疲労困憊、迷惑至極・・・」
登場人物。絵を描きにいく旅の相棒は主としてドスト氏(著名な彫刻家にして水墨・水彩・油絵を描く関保寿
氏)。イマちゃん(ドイト氏の友人で彫刻家山口氏の家に近い)。パラオ氏(雑誌編集者。山口氏担当か)は酒
・つまみを買い込んで見送りに来ることが多い。旅人を歓待する人は少餡氏(ドイト氏のパトロンで山口氏の
ファン。九州の山持ち、事業家)。間室氏(北上書房の人、梶山季之氏の中学の同級生)等々。
当人も言っているが山口さんの絵は克明である。表紙も山口さんが描いた知多半島の篠島の絵であるが、
民家の瓦や窓なども克明で、瓦の一枚一枚を丁寧に描く(なんとこの絵には4日を掛けたらしい)。岡部冬彦
さんは「あんたの絵はくたびれる」と表現した(p.231)。「あんたの絵はね、電信柱を描けば碍子まで一個一
個描いてしまうんだから」。「だってみえるんだからしようがない。わたしは遠くの方まで見えてしまう」多分根
が几帳面なのだ。
山口さんのおっしゃることはよく分かる。私にもその傾向があるから。観察は丁寧に、しかして大胆に省略する
ことが大事といわれるが、そうはいっても見えるものはなかなか省略できないのだ。性分でもある。
福山の鞆の浦、伊豆の稲取と河津、湯布院、石巻、網走みんな行ったことがあるところでこのエッセイは読ん
でいて楽しかった。
(以上この項終わり)