読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ナチ支配下のオランダで「ブラック・ブック」

2015年10月13日 | 読書

◇『Black Book―ブラックブック』 著者:ラウレンス・アビンク・ススパインク/イーリック・ブルス
                                            原案:ポール・バーホ-ベン/ジェラルド・ソエトマン
                         訳者:戸谷 美保
                                              2007.4 (株)エンタープレイン 刊

      


  ナチ占領下のオランダでレジスタンスとドイツSD(親衛隊保安諜報部)に運命を翻弄されたユダヤ人女
 性ラヘル・シュタイン。戦時下とはいえ家族を殺され、自らもレジスタンスの一員として役割を果たそうとし
 ながら、中に潜む裏切り者に嵌められ生死の瀬戸際をさ迷う。数奇な運命をたどりながら、戦後パレスチ
 ナで結婚、2児を得てその後教師となった。

  ドイツで生まれた美貌のユダヤ人歌手ラヘル・シュタインは、ユダヤ人狩りを逃れてオランダに渡るが、オ
 ランダがドイツに占領され、ナチの手から逃れようとレジスタンスの手を借りるが、ナチと通じる者のために
 両親と弟は殺されてしまう。一人助かったラヘルは、他のレジスタンスグループの一員として巧みにSDに
 潜り込み、歌手の腕を買われてSD幹部のムンツェに取り入ることができた。
 レジスタンスのリーダーであるハンスはみんなに慕われる好青年の医師であったが、実はドイツのSD幹部
 の一人フランクと通じ、逃避を願うユダヤ人から金品を取り上げ殺すという悪辣な男だった。彼の仕組んだ
 企みでSDに攻撃を掛けたレジスタンスグループは一網打尽でほとんどが殺されてしった。ハンスを除いて。
  ムンツェは親衛隊幹部ではあったが、ヒットラーの指示に反しレジスタンスから出来るだけ犠牲者を出さな
 いように取引をするような面もあった。そんなムンツェにラヘルは好意を寄せる。
  ドイツはついに連合軍に下る。敗軍のムンツェはラヘルとともに敗走を続けるがついに捕らわれる。ラヘル
 も捕らわれドイツ軍協力者として処刑される寸前、かつてのレジスタンスのリーダーに救われる。そして裏切
 り者ハンスを追いつめて殺す。

 生きるためには勇気が必要だ。・・・死ぬためには
少なくともそれと同じくらいの勇気がいる。・・・しかし、殺
 すこと、自分の手で命を絶つ、それも他人の命を―これは一番勇気を必要とするものである。(同書230p)
 戦争を生き抜いた善人の、なんとも生々しい懊悩。
  
  この作品は2007年3月に日本でも上映された映画『ブラックブック』の監督ポール・バーホーベンはストー
 リーと登場人物のモデルを見つけるためにオランダ国立戦時資料研究所にある1940~1945年までの記録
 を調べたが、この記録を元に、映画では描ききれない登場人物の考えや動機などを知ってもらうために小説
 にしたのだという。仮名ではあるが全て史実に基づいているだけにドキュメントとしての迫力がある。
  戦争は過酷である。兵士はもとより、戦場となった国土の一般市民、迫害を受けるユダヤ人など、不条理の
 支配する流れに翻弄される人たちの生々しい姿が、戦争のむごさとむなしさを訴える。

                                                       (以上この項終わり)
 
 

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