読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

バリー・リードの『起訴』

2015年10月30日 | 読書

◇ 『起訴』原題:The INDICTMENT 著者:バリー・リード Barry Reed
                                                       訳者:田中昌太郎 1996年3月 早川書房 刊

   

   バリー・リードの『評決』、『決断』に次ぐ三作目の作品。零細法律事務所ながら硬骨漢でならす
  ダン・シェリダンが主人公。舞台はアメリカで最も保守的な街ボストンである。


         本文はいきなり検屍解剖の場面から始まる。美術品トレーダーという美人女性アンジェラが遺棄
  された死体で発見され、飲んだくれの病理医マッカファーティと助手を務める研修医のカレン
が死因と死亡
  時間の解明に当たる。犯人と目されたのは付き合いがあったエリート医師
ディラード。上院議員選
  出を狙う地方検事ハリトン、その後釜と目されている検事補ドルテガ。所
轄のボストン市警の警部補ライリー、
  途中から割り込んできたFBIのロークリン、シェイラ特別捜査官。さらにはアンジェラは英国SASの諜報員で
  あったことが明らかになる。
   
これら事件をめぐって手柄を競う関係者が三つどもえ、四つ巴となって争う。FBIでは証拠の
  隠匿、電話の盗聴、住居不法侵入、弁護士事務所にカレンに捜査官を潜入させるこ
とも厭わない。
  地方検事ハリントンは検屍官に対し買収、脅迫、甘言などを弄しディラードの起訴を図る。IRAの資金源
  と国際麻薬組織が絡んだ殺人事件と踏んだFBIの焦りであるが、シェリダンは無実を訴
えるディラード
  のために地方検事ハリントン、検事補ドルテガ、FBI捜査官を向こうに回し奮闘し、ついに良心
  に負けた病理医マッカファーティとカレン、ライリー警部補の働きでハリントンの野望は潰えて、逆にFRB
  に逮捕される。
      ディラードは起訴されないことになった。しかし彼はシェルダンに対しアンジェラ毒殺の可能性を示
  唆した直後心臓発作でなくなる。マティーニを飲んだ直後に。

   実はこの小説は法廷サスペンスであるのは間違いないが、冒頭エピローグにある通り
  米国の大陪審制度に対する暗黙の批判が狙いとも思える。
   大陪審制度は英国で生まれたがすでに英国では廃されているが、英国から独立したア
  メリカでは未だにへその緒のように後生大事に制度を守っている州がある。英国と戦争
  をして独立した初期アメリカの拠点マサチューセッツ州もその一つ。             
   大陪審とは重罪については大陪審の起訴なくしては何人も裁かれないという制度であ
  る。大陪審にかけるかどうかの判断は地方検察官だけが握っている。23人の陪審員は
  検事が提示する証拠と証人だけを材料に起訴の妥当性を判断する。ターゲットの容疑者
  はもちろん弁護士も反論や陳述は認められない。判事も同席しない。意見を求められた
  ときのみ出番がある。検察官はだれを告発し、だれを見逃すかを決める立場にあるが、
  検察官に不都合な人が疑われれば、大陪審を後ろ盾に犯罪人のレッテルを貼り、巷に
  放り出すことができる。あとは疑わしい人物というレッテルでジャーナリズムの餌になり
  ズタズタにされるのを待っているだけでよい。たとえ後で無罪の審判が下ろうとも彼ま
  たは彼女の人生は終わるのである。大陪審制度はかくも恐ろしく権力側に一方的な制
  度なのである。
                                           (以上この項終わり)

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