読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ピータ-・メイの『忘れゆく男』

2016年05月24日 | 読書

◇『忘れゆく男』著者:ピーター・メイ(Peter May) 
        訳者:青木 創    2015.3 早川書房 刊 (早川文庫)

   

   ピーター・メイの<ルイス・トリロジー>の第二作。第一作『ブラック・ハウス』については読後感を
  既述したところ。完結編第三作は2013年『The Chessmen』として刊行された(邦訳は未詳)。
   
   主人公フィン・マクラウドは仕事に疲れ果てて、勤務するエディンバラ市警を辞めた。また関係が冷え
  切っていた妻ドナとはついに離婚する羽目になった。フィンは生まれ故郷のルイス島に戻る。

   物語はまたも死体の発見から始まる。湿地遺体と呼ばれる特異な死体は、泥炭湿地の作用で腐敗が
  抑えられる。死体はおよそ50年余り前に殺害された10代後半の男性。プレスリーのタトゥーがある。D
  NA照合の結果、フィンの幼馴染で元恋人のアーシャリーの父トーモッド・マクドナルドと血縁関係がある
  ことが分かった。ところがトーモッドは重度の認知症で、過去と現在の記憶、見当識がままならず、捜査
  は進まない。フィンは父母の家を修理しながら真相の解明に奔走する。

   物語はフィンの関係者からの聞き取り調査とトーモッドの一人称で語られる現在と過去のまだらな記憶
  回想から、状況がおぼろながら明らかなっていく。フィンが関係者や記録をたどって調べていくにつれて、
  トーモッドと弟のピーターが幼少時に父母を亡くし、教会の孤児院から養子に出されて、奴隷同然の過酷
  な少年時代を送っていたことがわかった。二人は町の悪ガキと狭い橋桁を渡るという肝試しをし、相手は
  橋桁から落ち死ぬ。恨みを持ったその弟たちはトーモッドとピーターを付け狙い、ついにピーターは首を
  切られるなど惨殺される。トーモッドは死者の名を騙り島を抜け出す。そしてドーモットはピーターを
  殺した兄弟に復讐するのだが、残ったもう一人の弟は今なお執拗にトーモッドをつけ狙っている。

   アーシャリーを捨ててドナと一緒になったフィンは、今になってつらい思いをさせたアーシャリーに済
  まないと思っていて、その父の疑いを晴らすために奔走し、ようやく彼女の信頼を回復したかに見えたの
  もつかの間、思ってもいなかった理由で彼女はまたも遠い存在に。「あなたを知っているつもりだったけ
  ど、わからなくなった。いまはもう」という言葉で一条の細い陽光も遠のく。果たして二人に和解の時は
  来るのだろうか。ドーモットはフィンの調査のおかげでかつての恋人、今は元女優のケイトと再会し、幸
  せを掴んだように見えるのだが。

   さて最終章に至り急テンポでサスペンスフルな場面が続き、復讐の応酬戦は終わりを告げる。第三作が
  楽しみだ。

                                        (以上この項終わり)
   
 
  


  
  

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