読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

桐野夏生『夜の谷を行く』

2017年12月04日 | 読書

◇『夜の谷を行く』著者:桐野夏生 2017.3 文芸春秋社 刊

  

      あさま山荘事件又は連合赤軍事件を題材にした小説。月刊文芸春秋に連載された。
   39年前リンチ殺人の舞台となった群馬県迦葉山の連合赤軍山岳ベースから脱走し
  た西田啓子が主人公である。
   啓子はあっさり逮捕され、公判を経て5年間服役、今はひっそりと一人で暮らして
  いる。
  
   そんな中リンチ殺人事件の首魁の一人死刑囚永田洋子が獄中で死んだ。昔の仲間
  が「永田洋子をしのんで送る会」を開きたいと連絡してきた。啓子は陰惨なあの過
  去を改めて振り返る。

   そこにかつて同棲し夫婦同様だった久間伸郎が電話してきた。車の事故で足が不
  自由でホームレス同然の暮らしをしているらしい。40年ぶりにあって食事をしてい
  る二人を襲った地震。未曾有の被害をもたらした東関東大地震である。
   啓子は永田洋子の死と重ね合わせ「時代が変わっていく徴」を感じる。

   妹の娘佳絵がサイパンで結婚式を挙げたい。伯母さんにも出席してほしいといっ
  てきたが、連合赤軍時代に米軍基地に対し爆破事件を起こした西田は米国に逮捕さ
  れる恐れがあると指摘され慄く。これまで隠してきた前歴を姪に告げた西田はその
  冷たい反応に怯む。
  
   啓子は熊谷千代治という昔の仲間から古市というルポライターを教えられる。古
  市は連合赤軍事件に詳しく、関係者の消息にも詳しいというので、リンチ殺人の途
  中で一緒に逃げ出した君塚左紀子の行方を尋ね、彼女に会い昔話をしているうちに
  左紀子が、総括を繰り返している妊娠6か月の金子みちよに対し、胎児だけ取り出
  して育てるという提案をした永田に賛同した啓子を、心の底では許していなかった
  ことを知り愕然とする。
    
   生き残りの一人金村邦子という看護師が啓子には絶対会いたくないといったとい
  う。気になった啓子は古市に頼み、話をテープ起こしをしてもらって、啓子を嫌っ
  た真相を知る。それは金村の誤解だったのかまさに的を得た指摘だったのか。
   金村は言う。女たちが子供を産んで革命兵士に育て、未来につなげるための戦い
  という崇高な理念があって参加したという。それを森が男の暴力革命に巻き込んで、
  永田がその片棒を担いだ。啓子はリンチにつながる総括で自分が生き延びるために
  指導部が求める正答しか答えず、裁判でも真相を語ることをしようとしなかった。
  
   関連資料をつぶさに調べたうえでの小説であろうから、どこまでが真実でどこか
  らフィクションなのかよくわからないところがあって、その意味では成功した作品
  である。しかし、途中で登場する古市というライターが実は啓子が獄中で出産し里
  子に出された子だったという下りはあっと驚く結末で、まさかという感が否めない。
  (ということはフィクション?)

   いずれにしても、「総括=リンチ=死」が飛び交った同時代を生きた身には、読
  んでまだ生々しさをきつく感じる作品である。
                                                                            (以上この項終わり)

 

 

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