読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

中上健次の『枯木灘』を読む

2018年02月19日 | 読書

◇『枯木灘』 中上健 次  2015.1 河出書房新社 刊

  

  紀州・熊野灘、海と山と川に囲まれた、昔宿場町であった田舎町に私生児として生まれ
 育った竹原秋幸26歳。この小説は秋幸を中心に綴られる。中上<紀州サーガ>のひとつ。

  巻末には相関図がついている。腹違い、種違いの兄弟やいとこなど、狭い土地ながら
 関図がないと混乱するくらい
入り組んだ血縁、地縁の人びとが入り乱れる。
  1976年『岬』で芥川賞を取った中上健次はこの地を題材に、『化粧』、『奇蹟』、
 『千年の愉楽』などいくつもの作品を書いている。『枯木灘』は反復の最終版である。
 『枯木灘』は単なる私小説でも物語でもない。と巻末に「解説 三十歳、枯木灘」を書い
 た評論家柄谷行人は言う。固有名詞を持った人物がその関係性をもって他の作品に生きて
 いるというのである。柄谷は中上を日本近代文学(自然主義文学)の保守本流とする。
  
 実兄の郁男は24歳の時首を縊り死んだ。
 秋幸は腹違いの弟秀雄を殴り殺した。そばには妾腹の従兄の徹しかいなかった。徹は
「逃げろ」と言った。秋幸の耳には「あの男」の呻き声が聞こえた。秋幸は答える「殺
 して何が悪りいんじゃ」26まで育ったこの地からどこへ逃げればよいのか。秋幸は
「あの男」にはっきりと教えてやりたかった。その男の子を別の腹の息子が殺した。そ
 の男の何百年も前の祖先浜村孫一の血が殺したのだ。「すべてはその男の性器から出
 た凶いだった。」
  「その男」とは秋幸の実の父親・浜村龍造。人を殺し、妻ヨシエ以外に秋幸に母
 フサと愛人のキノエに合わせて5人の子を成している。

  併禄された「覇王の七日」は「あの男」と人称代名詞であらわされているものの浜村
 龍
造の夢想である。その男は腹違いの兄に殺された英雄の葬式から7日間暗い部屋に閉
 じこもって、遠い先祖の浜村孫一の姿を何度も見る。狂った血の秋幸と自分の姿も。 

   和歌山県の潮ノ岬から白浜辺りまでの海岸線を「枯木灘」という。(著者ノートにかえ
 て 風景の貌)

                            (以上この項終わり)

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