◇『鉄の骨』 著者:池井戸 潤 2011.12 講談社 刊 (講談社文庫)
鉄の骨と言えば鉄骨、つまり建設のことが主題だなということは予想できる。
その業界ではいつの時代でも話題になるのが談合。この業界では格別の陋習で
ある。談合は独占禁止法でいう典型的な公正な競争を阻害する行為。入札談合
禁止法(入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を
害すべき行為の処罰に関する法律=平成14年制定)ができても一向に抜けだせ
ない慣行。なぜ談合はなくならないのか。業者が言うように本当に必要悪なの
か。入札談合禁止法ができて紛うかたなき犯罪となった現在もなお談合が行わ
れる風土とは何なのか。これに池井戸潤らしい切り口で臨んだ企業小説が本書
である。
談合問題を建設業界に焦点を当て、当事者たる建設業者とその社員、与信先
の銀行、うまい汁にありつこうとする政治家、談合フィクサー、談合を暴こう
とする検察をフル稼働させて根深い談合の本質を暴く。そこに中堅ゼネコン一
松建設会社の現場から「談合課」と呼ばれる業務課に異動させられた、まだ社
会人3年の若造・富島平太とその彼女・野村萌(一松のメイン銀行の行員)を
配し、肩肘の張らないエンターテイメントとして仕上げている。登場する人
物にあてる眼差しが優しい。後味が悪くない。さすが池井戸潤である。
建設会社同士のやり取りはともかく、並行して進む道路族の代議士城山への
黒い金の流れを追う検察特捜の追求劇の方も結構面白い。最後の数ページでこ
の談合未遂事件のからくりが明かされる。その意味でミステリーの要素もある。
内部告発、チクリである。悩ましい行為であるが、内部情報がないとなかなか
解明できない巧妙なシステムを暴くにはそれしかないのかもしれない。昨今の
内部告発者保護への動きを見るとそんな気がするのだ。
(以上この項終わり)