読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

深木章子の『極上の罠をあなたに』

2019年10月26日 | 読書

◇ 『極上の罠をあなたに
            
             著者:深木 章子   2019.9 角川書店 刊

  
  この作品は4話の独立した掌編が並ぶ。
 <便利屋><動かぬ証拠><死体が入用><悪化繚乱>
  一見オムニバスを思わせるが、各篇必ず「便利屋」という正体不明の人物が登場す
 るし、いずれの事件にも特定の悪徳刑事や刑事部長、悪徳政治家(と言っても市会議
 員だが)などが互いに関連しながら登場する。
 
<便利屋>
  市議の権田の息子が誘拐された。身代金は5千万円。妻は警察に届けてというが権田
 は反対する。秘書の木戸が5千万円を用意したところでその金を強奪され殺される。
  然し子供は無事に帰ってきた。用意した金は建設会社からの賄賂だった。
<動かぬ証拠>
  老舗会社の長男綱島圭介。妻が弟の昭彦と不倫関係にあるという証拠写真を手にする。
 動かぬ証拠を手に入れようと昭彦の部屋に入ると昭彦の死体があった。第一容疑者とな
 った圭介には父の遺産独り占めの魂胆があった。実は妻の麻利絵の不倫相手は別の男だ
 ったのだが、圭介が犯人になっては相続欠格で麻利絵に遺産が渡らなくなってしまう。
 便利屋登場。
<死体が入用>
  中堅商河北工業営業部長奥田。背任・詐欺・強請・業務上横領…悪事の限りでのし上
 がった。刑事・民事の追及の手が伸びてきた。一度死んで生まれ変わろう。そのために
 悪行ネットワークを使って身代わり死体と死亡診断書・火葬許可書を手配する。一体
 死ぬのは誰なのか。
<悪花繚乱>
  
P県槻津市という地方都市。葬儀屋や病院の院長・医師、建設会社、市会議員弁
 護士などみんなワル。しかもこのワルどもは類は友を呼ぶの倣い、互いに助け合う悪
 徳ネットワークが出来上がっている。通して読めばこの街がとんでもく不正・背徳に
 まみれた地方都市だということがわかる。
  片倉憲太は苦労知らずのぼんぼん。裕福な母親にたかるドラ息子である。女に目が
 ない憲太は、まんまと美人局に引っかかり脅されたあげく、あろうことかその男を殺
 してしまったと母親に泣きつく。しかも死体が消えて5千万円の口止め料を払えとい
 う強請付き。母親は藤代という悪徳弁護士に依頼する。藤代は都築という悪徳刑事に相
 談する。都築は憲太を締め上げてからくりを暴き出す。そして便利屋は…。


 <便利屋>とは。
  どういう手づるで知ることになったのか、悩み事を抱えた人物(高等犯罪予備群)に
 一枚のDMが舞い込む。
  そこには「人には頼みづらいが、自分でやるのはちょっと…そんな問題でお悩みのあ
 なた 便利屋を利用してはいかがですか 簡単な雑用から重大な任務まで、何でもお引
 き受けいたします。アリバイ確保、物品投棄についてもご相談ください なお、ご依頼
 事項の処理は先着順となっておりますので、その旨ご了承ください」とあるだけ。住所
 もなく、メルアドもない。携帯の電話番号だけ。

  悪事を企む連中は、ちょっと懸念はするが、やがて便利屋に電話することに…。 
 
  とにかく著者は元弁護士という仕事柄いろんな事件に出会い、いろんなタイプの被害
 者、被疑者、刑事、検察官などを識り尽くしたはずで題材に不足はない。それにしても
 事件の展開に正体不明の「便利屋」を介在させて、面白みを倍加させている手法には感
 嘆する。文章は歯切れがよく話はテンポよく進んでいく。小気味よい皮肉や警句めいた
 言葉もありすいすい読める。どんでん返しもあって、読んでいて楽しい。
                              (以上この項終わり)

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