◇ 『告発者(上)』(原題:THE WHISTLER)
著者:ジョン・グリシャム
訳者:白石 朗 2024.6.11新潮社 刊(新潮文庫)
リーガルサスペンス。 レイシー・ストールツ36歳。間違いなく彼女が本書の主人公である。
レイシ―はフロリダ州司法審査委員会の調査員である。相棒は4人の子持ち男性のヒューゴ-・
ハッチ。
アメリカの法制度として州ごとに地区裁判所判事に対する不正告発を審査する(Judicial Qua
lifications commissionI=略称QCI)という司法機関がある。しかし著者はここでは司法審査委員
会とう架空の組織を設けた。機能はほとんど同じだが前者では韓進諸部については勧告にとどま
るのに対し、ここでは判事の懲戒処分を下し辞めさせるとができることになっている。
フロリダ州ブランズウイック郡の地区裁判所は周囲の二つの郡をも管轄しており判事のクロ
ーディア・マウドーヴァーがにらみを利かせている。この判事が数多の不正を犯しているとの
告発があった。
審査委員会の委員長マイクル・ガイスナーはレイシーとヒューゴに担当を命じ、法定の2週
間以内に判事に告発状を送達するか否かを決めるよう指示した。
告発者はかつて連邦犯罪で服役したこともある男グレッグ・マイヤーズ。依頼人と仲介者は別
にいる。レイシーらは彼から告発の詳細を聞き、事実関係の傍証固めに動き出した。
告発書によれば、判事は先住民居留地にカジノを設けその周辺一帯のホテル、ゴルフ場など
土地開発を手掛けるマフィアの一味に対し、関連道路の整備など諸手続きの迅速かつ有利な決
定の便宜を図る見返りに判事に対し莫大な賄賂を提供したとする。カジノの上がりの一定額を
毎月供与し、ホテル5室を贈与、定期的にプライベートジェット機を利用した海外旅行の便宜
供与するなど贈収賄、財物強要、脅迫、訴訟不正操作等々の不正が10年以上続いているとい
う。
関係者からの事情聴取を続けるうちに、判事がらみの不正について耳よりの情報を伝えたい
との電話を受け、胡散臭いとは思ったものの出かけたレイシーらは見事すっぽかされ、挙句の
果て不審なトラックに正面衝突され、レイシーは瀕死の重傷、ヒューゴは命を落としてしまっ
た。シートベルトやエアバッグは細工されており利かなかった。明らかに裏でマフィアの一味
が動いていると見たガイスナーは、もはや猶予ならずとレイシーの完全回復も待たず判事に対
し告発状送達を行い、30日以内に釈明回答を寄せるよう通告した。マクドーヴァー判事は強
力な顧問弁護士と共にレイシーらを待ち構えていた。
(以下<下巻>に続く)
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