◇『煽動者』(原題:Soltude Creek)
・著者 ジェフリー・ディーヴァー(Jeffry Dever)
・訳者:池田真紀子 2016.10 文芸春秋社 刊
ジェフリー・ディーヴァーのキャサリン・ダンスシリーズ第四弾。
物語の舞台はアメリカ西部カリフォルニアの中央部の海岸に面したモンテレー。主役のキャサリン
・ダンスはカリフォルニア州捜査局刑事部麻薬組織合同捜査班に属している。バツイチでウェスと
いう息子とマギーという娘がいる。
彼女は「人間ウソ発見器」の異名をとるほど尋問に長け、ボディランゲージを読む「キネシスク」
という審尋技術のエキスパートである。
今回のダンスの活躍はキネクシスのテクを超えた活躍で名を挙げた。
ダンスは麻薬組織殺人事件の容疑者セラーノの尋問にあたっていたが、セラーノに関与はないと
判断し釈放した。直後に他部門の捜査陣から殺人の証拠が挙げられ大失態となった。このため停職
は免れたものの民事部に飛ばされた。
ところが民事部での初仕事で捜査に当ったナイトクラブでの火災による2人の圧死事件に不審を
抱く。圧死は意図的な煙発生と一つしかない出口封鎖状態による圧死と判断された。
引き続いて3件の類似事件が起こった。一つ目は海に面したアンティオック・ベイビューセン
タ-のイベント会場における観客墜落死事件(死者4名)。二つ目はテーマパークで起きたスマ
ホ、電話を使ったテロルデマ拡散事件(死者は出なかった)、三つ目はモンテレー病院のエレベ
ーター火災・閉じ込め事件(これも死者なし)。
これらは集団パニック状況を利用した殺人事件と見られた。
一連の誘導殺人の犯人はダンスの働きで捕まった。サイコパスのアンティオック・マーチはダ
ンスに殺人請負をあらいざらい白状する。
マーチは識り合ったゴロテクス画像愛好者クリスと「グロ画像」に興味を抱く顧客の求めに応
じて残虐な殺しを行い、生々しい死体シーンを撮影し高額で売っていた。閉じられた場所での集
団を煽りパニックを起こしたあげく圧死を招くのはマーチのお得意の手法だった。
いつもながら作者J・Dの状況及び心裡描写は常に丁寧緻密であり、飛び交う会話も気が利いて
洒脱である。
またダンスの個人的なエピソードも適時挿入され彩を添える。彼女の現在の恋人ジョンとの愛
と焼けぼっ杭に火がついた状態での元夫マイケルへの愛との葛藤。息子が友達と起こした強盗未
遂事件や警官ごっこの始末などであるが、極め付きのくだりは終章に至り、ダンスの人生の行方
を決めるジョとマイケル2人の男の告白が何と運命的なものであったか、実に感動的である。
最終段でのどんでん返しがまた見事である。実は最初にダンスがミスを犯したセラーノ捕り逃
しは、実は捜査陣に潜んでいるらしい犯罪組織のねずみ(スパイ)あぶり出し作戦としてダンス
が描いた壮大なシナリオのスタートシーンだった。
何にしろお得意のどんでん返し(あるいは背負い投げ)の手腕が見事である。
(以上この項終わり)
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