◇ 秋の草花・野の花
WATSON F4
今回の水彩画写生教室は「秋の草花」を描こうということで、幹事字はもちろん、みん
なで野の花々を持ち寄った。
野の花はありそうで絵の対象にできそうなのはあまりない。つゆくさ・くずのはな・は
ぎなどは道端で咲いている。じゅずだまも花ではないが持参した人がいた。
名もない野草というと「草花にはそれぞれ名があるのです」としかられるが正直普段目
にしても名を知らない花は多い。赤面ものである。
いくつかある花瓶のうち千日紅とヒメジョン、レモンマリンゴールド(?)などを含ん
だものを選んだ。みずひきらしい珍しい花も入っていた。
ハルジョンは背景色(ビリジャン)の中にしっかり置くためにマスキングをした。
千日紅はアクセントとして重要ではあるが色が、幾分重苦しい感じになってしまった。
(以上この項終わり)
◇『国語教師』(原題:DIE DEUTSCHLEHRERIN)
著者:ユーディト・W・タシュラー(Judith W. Taschler)
訳者:浅井 晶子 2019.5 集英社 刊
小説としてはやや風変わりな構造である。一つは小説の中に、入れ子のようにふたつの小説が
組み込まれていること。いま一つは特に章立てもせず、二人の主人公の交換メールの内容(クサ
ヴァーがワークショップ前に交わすメール)、二人の過去の経緯(過去)、現在の二人のやり取
り(再開時の会話・再開後交わしたメール)、二人が互いに語って聞かせる創作物語。この四つ
の場面から成り立っていてこれらが数ページごとに次々に入れ替わって述べられること。このた
め時系列が前後し、ちょっと目まぐるしい。
オーストリアティロル州教育文化局の高校生向け企画「生徒と作家の出会い」ワークショップ
がきっかけで、女子高の国語教師マティルダと、かつて同棲までしながら分かれた小説家クサヴ
ァーが、16年ぶりに再会するという中年男女の物語。紆余曲折の二人の過去。何があってこれか
らどうなっていくのか。サスペンスな事件もあったりして最後まで真相はわからない。
二人が初めてであったのは大学の講義室。同い年の22歳だった。ほとんど初めて恋を知った
マティルダはクサヴァーに夢中になる。しばらくして同棲するがクサヴァーは結婚しようとせず、
マティルダが子供を欲しがっても頑として同意しない。そのうち二人のアイディアで書いた小説
『天使の翼』、『天使の子』、『天使の血』が売れてクサヴァーが作家として世に出たとたん、
彼はマティルダを捨てて有名人の娘の許に走り結婚する。しかも子供まで作った(その子は2歳
足らずで行方不明になった)。これが16年前のこと。
マティルダは怒り心頭。だから「生徒と作家の出会い」ワークショップで再びつながりができ
て狂喜乱舞、再会を心待ちにするクサヴァーのメールににつれない返事しかしない。昔の楽しか
った思い出を語り、現在のマティルダの様子を知りたがるクサヴァー。自分を捨てて結婚して子
供まで作った男を詰る一方のマティルダ。
それから3か月たって、ワークショップが開かれた。恨みつらみはあってもかつて16年も内
縁の夫婦関係にあった男女のこと、マティルダも多少態度が軟化し互いにアイディアを出し合っ
たりして、それぞれが創作した物語を披露し合うようになる。不実であった元彼を決して許さな
い筈だったマティルダはいったいどうしたのか。男と女の機微の不思議なところである。
クサヴァーはおよそ半年間にわたってマティルダに隠れてデニーズという女性と付き合い、そ
の彼女が妊娠したことから進退窮まって逃げ出したのであるが、「僕はその頃は二人とも愛して
いたから」という無責任男である。そんな”凄まじいクソッタレのゲス男、臆病な卑怯者”(マテ
ィルダの言)クサヴァーに復讐するためにマティルダは『国語教師』を書く。自身の幼少期から
始まりクサヴァーとの出会い、彼の裏切り、そして幼い子供を拐かし、言葉を知らない人間に育
て上げるという壮絶な内容、クサヴァーの裏切りへの復讐心が見て取れる。
本書では「マティルダがクサーヴァーに語る真実」、「マティルダがクサーヴァーに語る推測」、
「マティルダがクサーヴァーに語る物語の結末」と題してマティルダが状況分析と指摘を重ね、
クサーヴァーが反論(言い訳)をする形で次第に二人を巡る人生の真相が明瞭になってくる仕掛
けである。
行方不明となったクサヴァーの子はいったいどうなったのか。それはそれなりにサスペンスフ
ルであるが、結局は生真面目で完璧主義の女性と責任を負うことを嫌い成り行き次第で生きてき
た男の出会いとその結末といった小説じゃないかと思っていたら、意外や意外思ってもいなかっ
た展開で純愛ものっぽい終わり方だった。風変わりだが面白い。
(以上この項終わり)
◇『服用禁止』(原題:Not To Be Taken)
著者:アントニー・バークリー(Anthony Berkely)
訳者:白須 清美
2014.4 原書房 刊
作品の舞台はイギリス。20世紀初頭と思しきロンドン郊外の田舎町での出来事。
親しく付き合っていた仲間の一人が死んだ。
事故死か、自殺か、はたまた殺人か。
検視審問が進む中で次第に被害者と関係者の意外な素顔が明らかになっていく。
緻密な会話の詳細まで綴り登場人物の人となりや癖などを告げる。これも重要
な布石となっていく。
風格漂う本格推理小説という惹句に間違いはない。
物語る主人公(わたし)は果樹園経営者ダグラス・シーウェル。そしてその妻
フランシス。実業家ジョン・ウォーターハウスとその妻アンジェラ。外科医師グ
レン・ブルームとその妹ローナ。村の情報通ハロルド・チームの7人は、折りに
ふれてはドーセット州の田舎町であるアニーペニーのジョンの大邸宅に集まって
食事をしたり語り合う仲間である。
そんなある日ジョンが急に具合悪くなり、5日ほど床に臥せっていた後心臓発
作で亡くなった。死因はグレンの見立てでは伝染性下痢によるものであったが、
葬儀の前にシリルというジョンの弟が現れて、死因に疑いありと遺体解剖を主張
したことによって事態は一気に混迷する。
解剖の結果ジョンの遺体に砒素成分が発見された。検死法廷が開かれる。
審問の過程で、フランシスを受取人とする多額の保険契約の存在が明らかにな
り、またジョンの資産状況が見かけほど裕福でなかったり、遺言書の書き換えが
予定されていたという新事実が現れたり、アンジェラには愛人がいたことが表面
化したりして、ことはどんどんややこしくなっていく。
検死審問ではジョンの秘書、女中などジョンの身辺にいた人物の証人喚問も行
なわれた。一向に有力な線は出てこないさなか、ジョン自筆の告白状が法廷に届
く。間違ってジョン本人が砒素を飲んでしまったというのだ。検視審問は中断し
警察が告白状の裏付けをとるもすべて文面内容と合致し、事案は事故死として確
定する。
ここで終わっては本格推理にはならない。「わたし」が事件の真相を推理し、
犯人に確認を迫る。その推理ではジョンと交友があった人物像が重要なカギにな
る。
読者は作品を真剣に読んでいたかどうかを作者に問われることになる。
黄金時代の英国の紳士淑女の暮らしが目の前に浮かんで楽しい。
(以上この項終わり)