読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ドン・ウィンズロウの『失踪』

2019年09月16日 | 読書

◇『失踪』(原題:Missing:NY)

                    著者:ドン・ウィンズロウ(Don Winslow
                    訳者:中山 宥   2016.12 KADOKAWA 刊(角川文庫)

  

    主人公はアメリカ中西部ネブラスカ州警リンカーンの署元刑事フランク・デッカー
(通称デック)。
 ヘイリーという5歳の少女が誘拐された。警察犬、ボランティアを含め警察組織を
総動員して捜索したが一向に足取りがつかめない。
  3週間が経過した。署内ではヘイリーはすでに殺されているという雰囲気にある。

 これまでの間、アメリカにおける子供の失踪事案の標準的処理が詳細に描かれる。
警察署・保安官事務所・州警・FBI・地域ボランティア・捜索ヘリの連携で児童誘拐
緊急展開部隊が編成され、
効率的に捜索が行われる。なにしろ統計的には誘拐殺人事
件に遭う子供のおよそ半数が発生から1時間以内に殺される。犠牲になる子供の3/4
は、最初の3時間以内に殺される。3時間以内に発見できなければ、いつか発見でき
る可能性は急激下がるというのだ。1日当たり5人の子供が殺されるというアメリカ
ならではの実態がある。このため全米行方不明・被搾取児童センターなど専門の組織
がある。
 一時麻薬常習者であった母親と行方不明の父親も疑われる。リストに載った小児性
愛犯歴者もアリバイを洗われる。

 3週間経ったそんな中、第二の少女誘拐事件が発生する。なんと8歳の女児は殺さ
れていた。犯人と思しき男を逮捕したが、ヘイリーちゃんとの関連は全くわからない。
署内では二つともこの男の犯行という線で動き始めた。

 署の捜査方針に釈然としないデックは、ヘイリーが生きているという確証もない
まま、妻と
の離婚も覚悟をしつつも、課長昇進を前に警察を辞め、自力でヘイリーの
足取りを追う。
 ダラス・ヒューストン・サンアントニオ・オースティン・ニューオリンズ・メンフ
ィス…。
全国的に報道されたためにSNSなどを通じて種々雑多の情報が飛び交う。

 デックはそんなネット情報の中に「ヘイリーちゃんを見たかもしれない」という書
き込みを発見した。発信者はNY州ジェームズタウンのエブリン・ジェンキンズ。
 デックはNYへひたすら車を飛ばす。どうかまだ死んでいないように。
 
 この後デックは芋ずる式にいろんな人物と会う。ガソリンスタンドの目撃者、有名
な写真家、写真のモデル、慈善団体の理事長、高級娼館女主人、ヒッピー夫婦、NY
市殺人課刑事、同風俗取締官、マフィアの親玉など。複雑に絡み合う人間模様を切り
分けながらヘイリーの痕跡を追う。
 ついに本ボシに迫りヘイリーを取り返す取引に臨んだはずであったが、意外な人物
が現れて…。
 
 デックは、元警官にしては結構荒っぽいハードボイルドな立ち回りを演じ、危機一
髪のところでヘイリーを取り戻す。しかし妻は帰っては来なかった。現職復帰を勧め
られたが断った。
一匹狼はどこへ行くのか。

                           (以上この項終わり)















 

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