リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

リュートとの出会い (5)

2005年03月13日 00時40分26秒 | 随想
 ジュリアン・ブリームによるリュートのCDを初めて聴いたのもちょうどその頃だ。一番最初に買ったレコードは、タイトルは忘れてしまったが、ヨーロッパ各国のルネサンスリュート音楽を集めたものだ。レコードの解説は、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の大橋敏成氏が執筆したもので、その内容はアルヒーフレコードに勝るとも劣らない充実したものだった。レコードに納められた曲の中には、バクファルクとかモリナーロといった現在でもそんなに多くは録音されていない作品もあり、内容的には大変興味深いものだ。ただこのレコードは彼の中心レパートリーからは少し離れたところにあり、彼はイギリスの曲を中心にレコーディングしているということを知るのはもう少しあとだった。ブリームの演奏はしっかりした技術で手堅くまとめられていたが、時折聴かせる爪を立てたスル・ポンティチェロの下品な音には閉口した。彼は私が高校2年生のときに来日し、名古屋でも公演を行ったので聴きに行った。愛知文化講堂で行われたそのコンサートは、私にとって初めて来日演奏家の演奏を聴くもので、大いに期待して会場に向かった。コンサートは二部に分かれ、第一部がリュート、第二部がギターだった。コンサートの冒頭、彼が演奏しようとするリュートを見て私は少なからずがっかりした。それは優美とはほど遠い、まるで大きなうちわを思わせるような不格好な楽器で、加えて時折彼が得意そうに見せるスル・ポンティチェロの下品な音と合わせて、それは私の頭の中にあるリュートというものとはかなりかけ離れたものだと思った。