リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ノスタルジア

2006年06月14日 11時57分56秒 | 音楽系
バーゼルにいたとき食事のBGMで一番よく聴いたのが意外にも武満徹の作品でした。バッハもよく聴きましたが、武満の方が何となく安らぐ感じがして、武満のCDを手に取ることの方が多かったみたいです。リュートのCDはBGMとしてはちょっと、って感じですね。ついつい余計な聴き方をしてしまうもんで。

何枚か持っていった武満のCDのうち、一番選曲、演奏ともいいなと思ってよく聴いていたのが、オーケストラ・アンサンブル金沢の「21世紀へのメッセージ第4巻」です。昨日訃報が届いた岩城宏之さんが育て上げた室内オーケストラです。

武満作品は60年代から結構録音されていましたが、そのころの演奏は今になって思うと、まだなんとなくこなれていなかった感じです。でも最近はすばらしい演奏がいくつか現れていますが、このCDはその中でも白眉だと言えます。

曲目は、弦楽のためのレクイエム、地平線のドーリア、ノスタルジア、ファンタズマ/カントスⅡ、ハウ・スロー・ザ・ウィンドで、初期の曲と後期の曲が収められています。(70年代の曲はありません)武満が早坂文雄のことを想って書いたと言われてる弦楽のためのレクイエムは今まで聴いた中で最もすばらしい演奏だと思いますが、一番の私のお気に入りはノスタルジアです。このヴァイオリンのソロを伴うオーケストラの響きの何と美しいこと!天から幾筋かの光がさしている中、ヴァイオリンの音が天上に昇って行く情景が浮かびます。この曲を聴くと薄暗い下宿で自炊の野菜スープをすすりながらこの曲を聴いていた日々を思い出します。

オーケストラ・アンサンブル金沢は何度も名古屋公演をしていて何回か聴きに行ったことがあるんですが、一番印象に残っているのが、今から10年ちょっと前の公演です。オール武満プログラムで、武満さん本人も会場に来ていました。公演に先立ちおこなわれたトークショーでは岩城さんと武満さんの興味深いお話を聞くことができました。まだあのころはお二人ともお元気だったのに。それから約10ヶ月後武満さんは急逝されました。そして岩城さんも昨日ついに武満さんのもとへ旅立ってしまいました。謹んでご冥福をお祈りいたします。