リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

現代の不便

2006年06月29日 14時38分26秒 | 日々のこと
最近世の中がどんどん情報化されて便利になった感じがしますが、実はそれは錯覚のように思えるときがあります。

先日ノートンのアンチ・ウィルスがインストールして間もないのに、「更新してください」って言ってきました。こんなはずはないがな、と思いサポートに電話しましたら、案の定つながりません。それにつながるまで待っている間も25秒で10円という途方もない課金があるという。じゃ、仕方がないので、メイルで質問しようとしたら、なんとかIDを書けとか、パッケージの箱の下にある8桁の数字を書けなど、一杯入力を要求されて、結局電話をかけ始めてメイルサポートに質問事項を送付し終わるまでに40分くらいかかりました。ノートンは質問する人にあれこれ色んなことを聞くことによって質問を断念させようとしているのかな、なんて勘ぐったりもしました。もっとも予め質問内容をできるだけ具体的に切り分けておかないと対応できないというこはよくわかるんですが、それでももう少し便利にならないもんでしょうかねぇ。

一息ついたのでコーヒーブレイクと思ったんですが、コーヒーの豆をあいにく切らしていました。そこでマイカルのスタバへ豆を買いに。マイカルも巨大店舗なので駐車場から店までの距離が遠くこれもなんとかならんかなと思いますね。今日はなぜかいつもの地下駐車場が満車。ぐるぐる回ったあげく外の駐車場に。そこからとぼとぼ歩いてマイカルの中のスタバに行きましたが、気が短い人だともう行かないで帰っちゃうかも。(笑)昔のお店の感覚だと、店のすぐ前まで行って中に入りさっと必要なものを買って帰る、現代はこういう感覚では買い物できないんですね。アプローチするまでが大変です。

スーパーの西友がインターネット注文の店舗を展開しつつあるそうです。まだ私が住んでいる地域ではそういう店舗はありません。そもそも西友がないですし。なんでもインターネットで注文したら最短3時間でなんでも届けてくれるそうな。水や米などの重量物もちゃんと届けてくれるらしいです。(まさか米びつまでは運んでくれんでしょうけど)これがウチの近所のスーパーでもやってもらえたらすばらしいですね、って思いましたが、よく考えてみると、こういうのって私が子供のころは当たり前だったんですよね。インターネットは使いませんでしたが、近所の八百屋さんや魚屋さんが電話で届けてくれました。魚屋さんなんか、注文もしないのに欲しそうなものを夕食の準備をする頃に持ってきました。こっちが欲しそうなものがちゃんと分かるんですね。アマゾン・ドット・コムみたいでした。

魚屋さん(ウチの入り口の戸を開けて)
「おくさーん、ええカレが入ったんやけどいらん?」
「そやなー、ほな頼むわ」

って感じでしたね。(笑) (注)カレ=カレイ。彼ではありません。

世の中がITのお陰でどんどん便利になっているって印象をマスコミなどがこぞって宣伝するので、こちらも何となくその気になっています。もちろんこのブログなんかかつて無かった形式なのですばらしい成果だとは思います。実体の伴わない情報系は明らかに革命的に便利になったんですけど、多くの日常生活というか物系ですね、それに関してはどんどん不便になっていってちょこっと便利になる、これが現代の実態なんですよね。物が広域かつ大規模展開しているからでしょうけど、地域に小さい拠点があって小規模な展開というのはこの時代無理なんでしょうかねぇ。生産地から消費者まで移動距離が少ない方ががエネルギーの消費が少なくて人間が住む環境に与える影響は減るでしょうけど、それを徹底すると流通業界が大打撃。経済縮小で日本沈没!(笑)経済発展と環境保護、もともと本質的に両立しないみたいですね。日本がまだまだ貧乏だった、私が子供の頃、全ての野菜はオーガニック、ゴミの出る量は少なく、省エネだったです。

リュートは産業革命以前仕様の楽器です。世の中に電気機器のハム音、回転軸の音、エンジンから出る爆発音がなかった時代です。多分今より何倍も静かだったんでしょうね。リュートよりさらにずっと音が小さいクラヴィコードという楽器すら存在したくらいです。そんな時代のものだから、木製の糸巻きでもって調弦するわけですが、金属歯車が一般的に使われていない未発達な時代の楽器だからさぞ弦を合わせるのが大変だろうというのが一般的認識です。リュートがよく言われているように弦を合わせるのが大変なのは事実です。でもその大変さは実はガット弦の狂いやすさと弦の多さから来るもので(やっぱり大変じゃんっておっしゃる方もいらっしゃるでしょうが)、一本一本の弦は意外と早く合わせられるもんです。でもこれには2つ条件がいります。一つはペグの調整がたとえ0.1ミリの回転でもスムーズにまわせられるように調整してあること。もうひとつは調弦する人の耳が電子チューナーなんかよりずっと正確であること。

金属も電気も使わす木製品を超精密に調整、さらに人間の能力も超とぎすますと今のコンピュータを使ったものよりずっとすぐれたものであることが多いようです。事実超ハイテク製品は人間の感覚に頼って加工するようです。昔の優れたリュート奏者も一本一本の弦はきわめてすばやく、パッパッパッパ・・・(このパッが多いのでトータル時間がかかる)と調弦していたでしょうね。もちろん今の優れたリュート奏者もそうやってやってますが。ローテクのものって条件さえ整えば、今のハイテクものより便利かつ精密なんですよね。