リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

2002年春,手紙 (7)

2004年12月31日 23時34分36秒 | 随想
 車で20分少々かかったコンサート会場はこぢんまりとした古い教会だ。小さな集落の中にあるその教会に人か集まりかけているところだった。受付で予約したチケットを受け取り中に入る。外観と同じようにその教会の中もほとんど昔のまま手を加えられていない感じで、暖房もなく寒い。後日彼とのレッスンの最中にこのときのコンサートの話が何回か出てくるところを見ると、彼にとって寒くて大変な演奏会だったようだ。しばらくすると、スミス氏が後方より登場した。20数年ぶりに見る彼の姿は昔の面影を残しているものの、年月の隔たりを感じさせるのに充分なものを漂わせていた。彼のライブを聴くのはこれが初めてで、懐かしさと新鮮さが相混じった不思議な感じだ。彼は肩に薄いセーターをかけてバロック・ギターを構え、ガスパール・サンスのパバーナを弾き始めた。教会の古い多孔質の壁面は、彼の指先から紡ぎ出される音を甘くやさしく包んでくれた。コンサートの後半は10コースのルネサンス・リュートによるイタリア初期バロック音楽だ。これらは彼がもっとも古くからレパートリーにしているもので、手慣れたタッチで曲を弾き終えた。

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