(1)韓国尹大統領の非常戒厳令は「クーデター」という説もあった。国民支持率の低迷に多数野党の政治抵抗に対して尹大統領とわずかの側近閣僚での野党の反乱と決めつけての非常戒厳令の目論見は、国会で野党に与党の一部も加わって非常戒厳令解除を可決して尹大統領も憲法規定に従って非常戒厳令を取り下げた。
(2)せめてもの韓国にもわずかに民主主義が有効に働いていることをみせた。尹大統領は国会から辞めさせられるか、弾劾が否決されてしかし自ら辞めるかのどちらかの道しかない。
(3)日本では保守思想の強い安倍元首相が憲法改正に強い意欲をみせて、その足がかりとして非常時、大震災、災害時を想定して首相に権限を集中する「緊急事項条項」の憲法改正案が提起された経緯がある。
憲法第9条で戦力を保持せず交戦権を有しない日本では、自衛隊は武器、兵器を有する(個別的自衛権保障)が使用は法令で制限されている。70年に作家三島由紀夫が当時野党などに違憲という意見もある自衛隊の合憲性を求めて自衛隊に乗り込み憲法改正のクーデター決起をうながしたが失敗に終わったことがあったが、これは政変というものではない。
(4)しかし自民党が主張する「緊急事態条項」は首相に権限を集中するもので、大震災、災害を想定したものではあっても非常時を「解釈」すれば首相が自己目的、利益を遂行するために憲法上与えられた集中権限を実行することは理論上は可能にすることもできる。その危惧があって首相に権限を集中する憲法改正には国民、野党から支持、理解されていない。
(5)自主憲法制定、憲法改正にこだわった安倍元首相は、専守防衛論の個別的自衛権の範囲内が一般的理解の第9条を独自の「憲法解釈」で集団的自衛権の行使容認を自民党多数で決めて、自衛隊の米国など同盟国と共同して海外紛争地域(周辺行動)への派遣を進めた。
憲法改正を目指す安倍元首相が国民の理解を得やすいとして緊急事態条項での首相権限集中を進めるとすれば、「解釈」によってどうにでも強権性を発揮できる、することが可能となることを自ら実証してみせた警戒感だ。
(6)日米韓同盟の強化を進める韓国で尹大統領による非常戒厳令の宣布は、一方で北朝鮮と対峙する韓国の軍事国家の現実性をみせたものであり、保守政権尹大統領と日本の関係改善が白紙に戻り、日本政府としても戒厳令のある韓国とない日本との不安定、むずかしさを実感するものとなった。