兔、波を走る

2023-08-09 22:43:57 | 舞台
実は、東京公演も観たので2回目の観劇。

東京公演の感想は、睡眠不足だけが原因じゃないけども、「少女都市〜」を観たあとだけに記憶が飛びまくったのでメモ書きだけしてブログにはあげませんでした。

大阪公演は、東京公演では買わなかった戯曲掲載の新潮を購入し、上演開始前までに読み終えて観劇しました。お蔭で台詞が入ってきやすかった。

東京では、私にとっては同じ系統だとおもっている唐作品と野田作品を同じ日に観れたこと、なにより野田作品に唐さんのご子息佐助君が出るという、まるで因縁めいたものを感じた。


いやー、これぞ不条理の極み。どんな有名無名脚本家が不条理劇を書いたところで、現実の社会的かつ政治的不条理には敵わない。

「フェイクピア」では日航機墜落事故を扱い、それまでは戦争を取り上げることが多かったが、今回はまさかの、一向に解決の兆しが見えてこない、日本社会の不条理問題である拉致問題を取り上げている。

未だ解決されぬまま、ご家族もご高齢者ということもあり風化しつつある現実に野田さんがメスを入れた、あるいは、「フェイクスピア」同様に取り上げるべきではないタブーエピソードを取り上げてしまった、衝撃的問題作だったと思った。

どうしてタブーかというと、ネットで日航機墜落事故や横田めぐみさん拉致って検索すると、デマなのか本当なのか、裏なのか表なのかも分からないくらい巧みに書かれた表?裏?エピソードが上がってくる。

むしろデマならデマのほうがいい。架空の都市に置き換えれば、因縁と自業自得、ハラハラ感をも持ち合わた完璧な脚本ネタにほからないから。それこそ初音アイがわざわざネットに書いたのか?と言いたくなる良く出来たプロット。

ありとあらゆる裏エピソードを脚本に起こしたら、リアルと虚構が入り混じり乱れたリアルなメタバース(仮想現実)が誕生すると思う。取り上げられた相手は堪ったもんじゃないけどね。

火のないところに煙は立たぬというが、火がなくたって煙が立つのがメタバースじゃないの?点と点をこじつけて線にしてあたかもリアルかのごとく表現しているのが、ネット社会じゃないの?

それくらいネットにはメタバースがウヨウヨ誕生している。

もちろん、私だってそのウヨウヨしている一つとも言える。ただ感じたことを書いているだけだから。根拠は?証拠は?と聞かれたら、無いですとしか答えられらない。ぶっちゃけね。

ということで、裏?表?エピソードはさておき、

本エピソードに関しては…、


このご時世、一体拉致問題にどれだけの人が関心があるのだろうか?

以前You Tubeの街録ch.で、脱北された方で、今も北朝鮮にご家族がおり、その脱北された方は高齢者ではありますが、生きている限り必ず家族を日本に連れ戻そうと今も活動されている川崎栄子さんの話を視聴していたので、

川崎さんがなぜ北朝鮮に行ったかその経緯を知っていただけに、本作は、理想(希望と夢)と現実が当時の思想と絡めてリアルに描かれていたので、宮﨑駿監督みたいにいくらファンタジーで描いていても、テーマが視えてくるとリアル描写にしか目に入ってこない。しかも2回目だと尚更。

最初の一生君の登場シーンが既にタイトルを回収している。

もう切なくて仕方ない。もう切ないとしか書けない。私の周りには泣かれている方もいましたが…。

川崎さんはご本人の意思で理想を信じて北朝鮮に行ったわけですが、よど号ハイジャック事件も含め、拉致されて北朝鮮に行った人も多くいたわけで、しかも、生きて脱北出来るとは限らない。

本題とは関係ないが、いくら社会主義思想、共産主義思想といえども、赤軍が北朝鮮に逃げ場を見出したのが切なくなってきた。全然違うから!独裁国家と本来の共産主義国家は全く違うもねだからね!と今なら言える。

話をもとに戻すと、

日本に脱北者を乗せた船が漂着したこともありましたが、船の中で亡なっていたりと生きて亡命することは非常に困難な現実がある。

今も拉致被害者の家族は政府に救出を訴えかけていますが、進展はない。生きているかどうかも分からない。

どんなに願っても訴えかけても一個人の力でどうすることも出来ない、何の権力もない人間が集団になっても解決できないリアル不条理さを観客に訴えかけている。

母親は待ち続け、娘は叫び続けるしかない、なんともいえない不条理さと切なさしか残らない作品でした。

実在の人物と出来事を物語にしているので、リアルな状況しか映ってこない。

ウサギを追って穴に落ちたアリスをその母親が探す。ラストを知ると最初の件(くだり)が、これを書いている時点で切なくなる。

一生君演じる脱兔は元拉致工作員兵士。

アナグラムで兔を解析するとUSA-GI(アメリカ兵)になる。兔たちは、子供の頃からアメリカのスパイ養成と見せかけた拉致工作員兵士になるために養成させられていた。

拉致工作員だから海外から被害者を拉致することが目的だからいわゆる38度線を越えやすかった。だから脱兔、つまり脱北できたのだ。

一生君演じる脱兔とは、実在の安明進。これは台詞にあり。彼の存在で横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されたことが明らかになった。そこから元首相の小泉さんの時代に拉致被害者が全員ではないが帰国することができたが、横田めぐみさんは…。そこから横田めぐみさんには娘さんがいることが分かりDNA鑑定で親子とほぼ断定されている。めぐみさんのお母さんと会うことができたが、今は北朝鮮にいる。

そして安明進ご本人は失踪し、殺害されたとされている。

つまり、野田さんの戯曲は、虚構という名の現実だった。ファンタジーという名のメタファーだった。

登場人物も設定も、いかにもおとぎ話のような不思議の国のアリスの世界観と登場人物をモチーフに、不条理作家の代表のブレヒトやチェーホフの子孫を登場させたり、

それこそ、チェーホフの代表作「桜の園」や主人公のラネーフスカヤをモチーフにした登場人物やシチュエーションもあり、

不思議の国のアリスに登場するハートの女王もモチーフになっている。

川崎栄子さんの話をきいていると、川崎さんが北朝鮮に理想を求めた理由も理解できるから、

野田さんが描いている世界観は、拉致被害者だけでなく、自らの意思で入国した人たちの思いも見えてくるから尚素晴らしい。

皆希望を持って日本から北朝鮮に行ったかと思うと北朝鮮の地に降り立った時の心境を想像するとなんとも言えないものがある。希望や夢を持てるくらい宣伝活動が上手かった証拠だと思う。

新しい土地での移住は、当時は希望だったと推察。きっと今よりも良くなるはずだと思って旅立ったはず。現実はそう甘くなかった。甘くないだけならいいが、自由に帰ってこれないのはもっと残酷。

川崎さんが出演されている街録ch.は本当にオススメします。

川崎さんがなぜ北朝鮮に行きたくなったのか、北朝鮮での生活の現実、脱北の現実、そして川崎さんの現在の活動も知ることができるので是非とも視聴してもらいたい。

川崎さんと拉致被害者とは微妙に異なるが、離れ離れになった家族にとっては同じこと。

一生君演じる脱兔は、死んで日本海の日本に打ち寄せる波になる。

松っちゃん演じるアリスの母親は、拉致された娘と再会を待ちわび、ただひたすら娘アリスが母親を呼ぶ魂の声を聞き続け、

多部未華子ちゃんちゃん演じるアリスは、母親を呼び続ける。

もう、そうするしかない。妄想なんかじゃない。もう、そうするしかないのが現実。だって、今も現実に娘に会えていないのだから。

アリスのお母さん役の松っちゃんもアリス役の多部未華子ちゃんも切ない役どころ。

元女優かつ女地主ヤネフスマヤ役の秋山菜津子さんは、まさしくチェーホフの「桜の園」のラネーフスカヤそのもの。最後の置き台詞も良かった。女地主でもあり不思議の国のハート?の女王でもあったり。

東京公演で、「貴婦人の訪問」でも歌っていたシュールなメロディーで歌ってくれたときにはビックリした。でも、大阪でメロディーが微妙に変わったような気もしたが…。

そのヤネフスマヤに恋する、大鶴佐助君演じる謎の金持ちシャイロック・ホームズは、まさにベニスの商人のシャイロックがモチーフ。ヤネフスマヤを独占するためにヤネフスマヤの土地を購入する役どころ。


野田さん演じるブレヒトの孫?のブレルヒトも、大倉孝二さん演じるチェーホフの孫?のチエホウフ?も、不条理劇の劇作家として登場し、この拉致被害未だ未解決という不条理な世界観表現するのにはもってこいの登場人物ではあるが、

二人は二人で、偉大なる作家の子孫としての苦悩があり、先祖(偉大なる作家)には敵わないかもしれない不安。現代のAIの発展で、AIが戯曲を書く時代が来る、劇作家生命も断たれるのではないかという不安。の象徴としても登場している。

もし、AIが演出も兼ねるなら別だけど、演出が人間ならまだまだ大丈夫だと思う。

AIが描かく世界って、それこそカオスな文脈になると思う。文字で表現できない心をそもそも表現できるのか疑問。

単純に愛しているとか恋しているとか文字で表現できない、テレパシー的な感覚ってAIに表現できるのかな?そもそも幽霊や守護霊視えますか?と同じ。

だから、野田さん、そのまま戯曲書き続けても野田さんを超えるAIもアバターも50年は登場しませんから、安心して書き続けて下さい!←お前は何様や!

m(__)m

でも、仮想現実であれ、手で触れられないものにせよ、世の中が、目で見えるもの、聞こえるもの、匂いがあるものだけが真実である、現実であると考える思考の持ち主ばかりになった時は、作家は廃業の時だと思います。

世界に空気がある限り、風がある限り作家は生きていけます。あ、呼吸するための空気という意味だけじゃないですからね。