怪談 牡丹灯籠

2023-08-26 00:18:56 | 古典芸能
めちゃくちゃ面白かった! 

実は、初めて観る牡丹灯籠。

四谷怪談がコメディーのイメージがあったのは、牡丹灯籠と勘違いしていたのかもしれないと思うくらい、小さな笑いがたくさん散りばめられていて本当に面白かった。第一幕はね。

第二幕は、第一幕と打って変わって人物描写がとてもリアルになり、

コメディータッチの怪談ものだと思っていたら、第二幕では、人間の情だけでなく、成り上がりの成れの果ても描かれていて、ムーラン・ルージュを観たあとだけに、形式ばった歌舞伎作品とはまた違う脚本の妙にたじろいた(笑)

落語ベースだから、もちろんお笑い要素満載。

幽霊が我が恋のために百両用意するなんて、いかにも落語的な発想だけど、その裏では、お家の確執であったり、浮気だったり、裏切りであったり、それこそ桜姫東文章に似た因果の渦に飲まれたりといった背景がある。

その中で人間の情が描かれていたりと、ただ笑える作品ではなく、現代にも通じる要素がたくさんあって、世間との確執であったり、失われつつある人の情、情は人のためにあらず、といったメッセージ性を感じる内容にもなっていて、個人的には四谷怪談より好きかも。

今回の牡丹灯籠は、本来の牡丹灯籠と少し端折られて上演されていて、因果の渦の部分が台詞でしか説明されなかったりするけど、ただの色恋沙汰や浮気沙汰とも違う、それこそ因果の渦によって導かれた出会いであったりするのが、本当に面白い脚本だった。

ま、ご都合主義と言われたらご都合主義な展開ではあるんだけどね。

それでも良く出来たに脚本だと思った。

前説で、幽霊は実在するのではなく想像でみるものと前振りすることで、ラストシーンこそ因果の渦の憐れな成れの果ての結果であったりするので、あの終わり方はシュールで良かった。

作品のテーマは幽霊なのに、途中から(第二幕)幽霊と関係ない、夫婦間の確執の物語が始まる。ところが、ちゃんと幽霊で締めるところが、落語的オチかなと思った。スッキリするオチではないんだけどね。前説ありきのオチです。

第一幕と第二幕とで既に因果が巡っている構成も良かったし、夫婦に限らず恋人同士でも友人同士でも、職場の同僚同士でも、妬み嫉み恨みって多少なりともあったりするわけやん。

貧乏時代はお互い助け合って生きてきたのに、羽振りがよくなった途端に浮気に走ったり、裏切ったりということは、大小の差はあれどもあったりするわけやん。

そういう現実を見せつつも、玉三郎さん演じる小峰さんのように貧乏時代と変わらぬ人情深さとか、だからといって夫の浮気を許せるくらい懐が大きいわけじゃないといった人間味もあって、人物描写が非常にリアルだった。

また、愛之助さん演じる、小峰の夫の伴蔵なんて、本当に絵に描いたような典型的な成り上がり者だったりするのも、絵空事でなくリアルにそういう人いるからね。

ラストも、無意識に自分の弱さが表出するその精神状態をリアルに表現されていて、めちゃくちゃ現代に通ずる要素がたくさんある。

幽霊ベースの怪談ものと思わせておいて、コメディータッチのおどろおどろしい怪談要素は背景画でしかなく、メインテーマとして描かれているのは、人間としての在り方、夫婦の在り方や絆といった人間ドラマ。それだけでなく、過去の因縁や因果といった桜姫東文章に似た世界観がが描かれていたのが1番の驚き。

現代劇として何度もドラマ化や映画化されているのも納得した。


それにしても、玉三郎さんと愛之助さんの息のあった会話というよりリアルな夫婦の会話に近い絶妙な間が堪らなかった。下手すると眠りを誘う間でもあるんだけどね。

今回も玉三郎さんのまさしくガラスの仮面のごときマイム表現とか会話の間とか、お峰という役の年増なんだろうけどなんとも言えない可愛らしさがあって、玉三郎さんの演技にずっと引き込まれっぱなしだった。

声のトーンがいつもより低いし、か細くてついつい体調が気になってしまいましたが、第二幕ではトーンが上がっていたので演技だったんだとお見受けしました。

今回はラブリーさんとは呼びませんが、愛之助さんの伴蔵役がめちゃくちゃ良かった!昨年の伊右衛門よりハマってる印象。

こんなこと書いたら失礼を承知で書きますが、玉三郎さんとの会話の間が、四谷怪談の時よりめちゃくちゃ素晴らしかった!リアル夫婦の間だったよ。

愛之助さんて、ニヒルな役がピッタリな方だと思っていたけど、ドラマの影響か、最近はめっきり愛之助さんのコメディーセンスがめちゃくちゃ冴えてる!11月公開の映画「翔んで埼玉」の大阪府知事役が楽しみでしかない!藁

今回も喜多村緑郎さんと河合雪之丞さんもご出演ということで非常に楽しみにしてましたが、

第一幕では緑郎さん、第二幕では雪之丞さんが大活躍でしたが、やっぱり華と色気がある!

ぶっちゃけ書いて申し訳ないですが、今回の作品は緑郎さんにとっては痛い内容ではありましたが、舞台に立つことが禊ぎだと思っているのでもっと舞台に出てください!

もちろん、雪之丞さんも。あ、禊ぎでなないですよ(汗)

新派の黒蜥蜴の再演を切望してます!


今回、歌舞伎作品ではありましたが、ムーラン・ルージュがめちゃくちゃ引き立てた感がある良い脚本作品でした。