強風が吹き荒れる、生憎の連休でした。こんな日に思い起こされるのが、バイト仲間だったユンケル君(仮称)です。
十代の夏、特にお盆休み前後は、頼まれて伊豆半島のとある海水浴場の民宿でバイトをしていたことがあります。民宿だけでなく、海の家の手伝いもしていたので、朝から晩まで忙しいバイトでした。しかも食費などを引かれるので、手取りは一日3000円に満たない。吾ながら、よくやったと思う。
まあ、子供の頃世話になった人の紹介だったのもあるが、実のところ結構楽しいバイトだった。休みはあまりなかったが、それでもたまには「海遊び」を楽しめたのが魅力だった。
仕事のなかで、けっこう楽しかったのが、海の家に泊まり番をすることでした。若い衆が2人くらいで食材等の見張り番をするのですが、途中差し入れやら、思わぬ闖入者もあり、秘めやかな夏の楽しみでした。
ある晩、地元の青年と共に泊まり番をしていた時のことです。私は時々夜の海に入り、のんびり浮かんでいるのが好きだったので、その夜も海に入ろうとすると、その青年から止められました。「今夜は止めとけ」と。
月の美しい晩でしたから、月夜に海に浮かぶことを楽しみにしていたので、失望して理由を問うと、話してくれたのが、ユンケル君のことでした。「お前、ユンケルの奴、知っているよな」。
「この夏は、まだ会ってませんけど、彼がなにか?」と私。ユンケル君は、私より3つ上の若者で、十代の癖にユンケル液を愛飲する、たいへん軟派な遊び人でした。その青年が話してくれた、ユンケル君の昨年の出来事は衝撃的でした。
やはり月の美しい夜だったそうです。先週隣の浜で行方不明になった女子大生の捜索も、見つからぬまま、一応捜索は打ち切られ、ようやく平常を取り戻した日のことだそうです。昼間のナンパが不調に終り、不機嫌なユンケル君は、その晩海の家の泊まり番でした。野郎二人で酒を飲みながら、面白くねえ~と叫んで、一泳ぎしてくると言い残して、夜の海へ入っていきました。
泳ぎ達者なユンケル君は、遠浅の海に泳ぎだし、月夜を枕に海に浮かんでいた時のことです。突然、足を誰かに引っ張られ、凄い力で海の底へ引き摺りこまれそうになったそうです。必死で足をばたつかせ、思いっきり蹴っ飛ばしたところ、べりッと何かが剥がれるような音がして、急に引っ張る力が弱まった。大慌てで、浜辺に泳ぎ戻り、大声で助けを求めると、海の家から仲間が飛び出してきました。
腰が立たず、四つんばいで浜辺に上がり、仲間の肩を借りて小屋に上がり、激しい息使いと共に唐黷アんだそうです。仲間は、何が起こったのだと問いながら、小屋の電灯を付けたそうです。いきなり仲間が悲鳴を挙げました。
「お・お前、その足!」。なんとユンケル君の膝から足首にかけて、長いの髪の毛がごっそりと絡みついていたそうです。しかも末端には、人の皮膚らしき白いものが・・・
大慌てで大人を呼び、警察も出動して大騒ぎ。翌朝、浜の海底5メートルくらいに先週行方不明であった女子大生の溺死体が沈んでいたのが見つかったそうです。死後数日たっていたのは確かでしたが、髪の毛が剥ぎ取られた後が生々しかったのが印象的だったそうです。
陽気な軟派人のユンケル君も、さすがに落ち込んだそうです。「もしかしたら、助けを・・・」皆がそんなわけない、と励ましても俯いたままだったそうです。そして、その年の秋には、街を離れたそうです。「もう、海には入れない」との書置きを残して。
その話をしてくれた青年が「実はな、一年前の今夜なんだよ・・・」。さすがに、私も海には入る気がうせました。
実は数年後、大学生の頃にユンケル君とは、思わぬ再会を果たしました。長野県のとあるスキー場のロッジで、強風を避けて休んでいると、雪焼けした青年が声を鰍ッてきたので、誰かと思ったらユンケル君でした。
「久しぶりっす!、元気ですか」と応えると、オオ、元気元気!と昔通りのユンケル君。「今もユンケル、飲んでいるんすか?」と聞くと、「馬鹿野郎、これからはロイヤルゼリーだぜ!」と腕を曲げてコブシを立ててポーズ。相変わらずだ・・・おや?
手首には数珠が。思わず顔を見ると、表情が一瞬消えた。すぐにほころび、「大丈夫、俺は水子の霊に守られている」と思いっきり罰当たりな言い訳をして、笑いながら立ち去りました。以来、消息は知れませんが、きっと元気にしているのでしょう。こんな強い風の日には、彼の陽気な笑顔が思い出されて仕方ありません。
十代の夏、特にお盆休み前後は、頼まれて伊豆半島のとある海水浴場の民宿でバイトをしていたことがあります。民宿だけでなく、海の家の手伝いもしていたので、朝から晩まで忙しいバイトでした。しかも食費などを引かれるので、手取りは一日3000円に満たない。吾ながら、よくやったと思う。
まあ、子供の頃世話になった人の紹介だったのもあるが、実のところ結構楽しいバイトだった。休みはあまりなかったが、それでもたまには「海遊び」を楽しめたのが魅力だった。
仕事のなかで、けっこう楽しかったのが、海の家に泊まり番をすることでした。若い衆が2人くらいで食材等の見張り番をするのですが、途中差し入れやら、思わぬ闖入者もあり、秘めやかな夏の楽しみでした。
ある晩、地元の青年と共に泊まり番をしていた時のことです。私は時々夜の海に入り、のんびり浮かんでいるのが好きだったので、その夜も海に入ろうとすると、その青年から止められました。「今夜は止めとけ」と。
月の美しい晩でしたから、月夜に海に浮かぶことを楽しみにしていたので、失望して理由を問うと、話してくれたのが、ユンケル君のことでした。「お前、ユンケルの奴、知っているよな」。
「この夏は、まだ会ってませんけど、彼がなにか?」と私。ユンケル君は、私より3つ上の若者で、十代の癖にユンケル液を愛飲する、たいへん軟派な遊び人でした。その青年が話してくれた、ユンケル君の昨年の出来事は衝撃的でした。
やはり月の美しい夜だったそうです。先週隣の浜で行方不明になった女子大生の捜索も、見つからぬまま、一応捜索は打ち切られ、ようやく平常を取り戻した日のことだそうです。昼間のナンパが不調に終り、不機嫌なユンケル君は、その晩海の家の泊まり番でした。野郎二人で酒を飲みながら、面白くねえ~と叫んで、一泳ぎしてくると言い残して、夜の海へ入っていきました。
泳ぎ達者なユンケル君は、遠浅の海に泳ぎだし、月夜を枕に海に浮かんでいた時のことです。突然、足を誰かに引っ張られ、凄い力で海の底へ引き摺りこまれそうになったそうです。必死で足をばたつかせ、思いっきり蹴っ飛ばしたところ、べりッと何かが剥がれるような音がして、急に引っ張る力が弱まった。大慌てで、浜辺に泳ぎ戻り、大声で助けを求めると、海の家から仲間が飛び出してきました。
腰が立たず、四つんばいで浜辺に上がり、仲間の肩を借りて小屋に上がり、激しい息使いと共に唐黷アんだそうです。仲間は、何が起こったのだと問いながら、小屋の電灯を付けたそうです。いきなり仲間が悲鳴を挙げました。
「お・お前、その足!」。なんとユンケル君の膝から足首にかけて、長いの髪の毛がごっそりと絡みついていたそうです。しかも末端には、人の皮膚らしき白いものが・・・
大慌てで大人を呼び、警察も出動して大騒ぎ。翌朝、浜の海底5メートルくらいに先週行方不明であった女子大生の溺死体が沈んでいたのが見つかったそうです。死後数日たっていたのは確かでしたが、髪の毛が剥ぎ取られた後が生々しかったのが印象的だったそうです。
陽気な軟派人のユンケル君も、さすがに落ち込んだそうです。「もしかしたら、助けを・・・」皆がそんなわけない、と励ましても俯いたままだったそうです。そして、その年の秋には、街を離れたそうです。「もう、海には入れない」との書置きを残して。
その話をしてくれた青年が「実はな、一年前の今夜なんだよ・・・」。さすがに、私も海には入る気がうせました。
実は数年後、大学生の頃にユンケル君とは、思わぬ再会を果たしました。長野県のとあるスキー場のロッジで、強風を避けて休んでいると、雪焼けした青年が声を鰍ッてきたので、誰かと思ったらユンケル君でした。
「久しぶりっす!、元気ですか」と応えると、オオ、元気元気!と昔通りのユンケル君。「今もユンケル、飲んでいるんすか?」と聞くと、「馬鹿野郎、これからはロイヤルゼリーだぜ!」と腕を曲げてコブシを立ててポーズ。相変わらずだ・・・おや?
手首には数珠が。思わず顔を見ると、表情が一瞬消えた。すぐにほころび、「大丈夫、俺は水子の霊に守られている」と思いっきり罰当たりな言い訳をして、笑いながら立ち去りました。以来、消息は知れませんが、きっと元気にしているのでしょう。こんな強い風の日には、彼の陽気な笑顔が思い出されて仕方ありません。