ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「氷点」 三浦綾子

2008-04-02 12:26:06 | 
今から3~40年前のことだが、ある歌が大ヒットしたことがある。シンガーソングライターの小坂明子が歌った「あなた」という曲だった。

いい歌だと思う。今でもカラオケなどで、耳にすることもある。時代に残る名曲だと思う。思うが、私は嫌な曲だとも思っていた。メロディではなく、歌詞が嫌だった。

小さな白い家も、足元に寄り添う犬も、そして小さな坊やも皆、幸せを彩るための小道具に過ぎないのではないか。両親が離婚して日も浅かった幼い私には、そのように聴こえてならなかった。

当時、決して口には出さなかったが、自分は親たちの幸せのための小道具に過ぎなかったのかとの疑問が脳裏を離れなかった。いったい何のために結婚して、子供を産み、家庭を築いたのか、私にはさっぱり分らなかった。

どうしても親たちに対して、醒めた目線を注がざる得なかった。

そんな私でも一点、感謝していることがある。それは父も母も、子供たちの前では決して喧嘩をしなかったことだ。雰囲気がオカシイのは、鈍感な私でも気がついた。それでも、父も母も、家族を演じてくれた。それはある日、突然破綻したが、不思議なくらい私たち兄妹は動揺しなかった。なんとはなしに、予感めいたものがあったからだ。それが穏やかな衝撃であったが故に、子供としては、楽に乗り切れたと思う。

ただ、漠然と割り切れぬ想いは、深く沈殿せざる得なかった。

なんでも話し合う家族なんて、実に愚かしいと思う。子供には知らせないほうがいいこともある。大人だけで対処すべきこともある。子供には、心が十分育ってから伝えても間に合う。

割り切れたわけでは、決してないが、それでも当時の別れた理由はなんとなく分る。大人になり、女性としての母を冷静にみれるようになり、父の不満がそれとはなしに分るようになった。そして、母がどうしても許せなかった父の振る舞いがあったことが、今にして分るようにもなった。

子供では決して、理解できなかったと断言できる。

表題の作品はあまりに有名なものなので、読んだ方も多かろうと思う。私が初めて読んだのは、高校生の時だが、当時は半ばで読むのを断念した。私には辛すぎたからだ。そして30年たった今、再び読んでみても、やはり辛いな。まだ、私には消化しきれない。大人の愛憎に振り回される子供たちの悲痛な想いに、必要以上に共感してしまうので、やはり辛い。

後20年くらいたった老齢の年になってみないと、私には読みきれない内容なのだと思う。今の私には消化できません。
コメント (6)
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