ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「痴人の愛」 谷崎潤一郎

2008-04-11 07:10:04 | 
真面目なやつがおかしくなると、とことんおかしくなる。

子供の頃からプラモデルを作るのは、けっこう好きだった。中学のはじめくらいまでは、数人のプラモ仲間と集まり、作ったものを見せ合ったり、プラモ専門店をまわったりして遊んでいた。

そのプラモ仲間にTがいた。真面目な奴だった。趣味が同じでなければ、まず付き合うことはなかったと思う。規則とは、破られるためにあると公言していた私に、真剣に説教してくる奴だった。まあ、悪いやつじゃないので、適当にいなしていたが、真面目すぎて苦手な奴でもあった。

プラモデル造りもやらなくなり、別々の高校に通うようになると疎遠になったが、なんと大学で再会した。相変わらず真面目そうだった。いや、最初だけは・・・

私が4年間を過ごした大学は、いわゆるお坊ちゃんお嬢ちゃんの通う大学で、実に華やかな雰囲気が特徴だった。私なんぞ、違和感を感じて、居心地が悪かったくらいだ。幸いにも旧制高校の流れを汲むせいか、運動部は昔風のバンカラな気風があり、私はすぐにWV部に入部して、体育会の野蛮な雰囲気に馴染んでいた。

入学して夏休みが過ぎて、Tにキャンパスで逢ってビックリ。7:3分けの髪型は、さわやかなテニス青年風に変わり、緑のワニが目立つポロシャツもかろやかに、日焼けした軟派な遊び人に変貌していた。

聞けば、女の家を渡り歩き、まともに家に帰ってないらしい。あのクソ真面目なTがねえ~と私は、その変貌振りに呆れたが、ちと不安にも思った。変貌が激しすぎる観があったからだ。

案の定、試験はボロボロ。出席日数は足らず、当然に留年した。大学デビューの遊び人は、遊びに免疫がないから、はまるととことん堕落する。その翌年も留年したと噂を耳にした。まともに大学に来てないのだから、当然だと思う。性質の悪い女に捉まったとの噂は本当らしい。

さすがに学年が2年離れると、噂もなかなか伝わってこないが、進級後はどうやら憑き物が落ちたように、大人しくなったらしい。卒業間際に少し話をしたが、Tはうつむきながら、「少し遅れるが、きっと卒業するからさ・・・」と呟いた。

私が「あの女とは、どうなった?」と尋ねると、Tはすねるように横を向き「わからねえ。別れられなくってさ」と言い、急に私の顔をみつめると、「女は怖いゾ」と言って席を立った。その後のTを、私は知らない。

正直言えば、私はTを少し羨ましく思っていた。私はそこまで女に入れ込んだことはない。周囲からどう思われようと、本能に突き動かされる姿は、私が知らない愛の形の一つなのだろう。ただ、谷崎が描く様なナオミはけっこう。破滅型はごめんこうむりたい。

いや、毒食わば皿までという。どうせ滅びるなら派手なのもいいかも。私には似合わないと思うけどね。
コメント (4)
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