ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「コブラ」 寺沢武一

2008-04-14 10:59:15 | 
自分のかたちを持っている人は強いと思う。

喧嘩でも、外交交渉でも、あるいは営業の商談でもいいが、勝つために大切なのは、相手のペースに乗らず、自分のペースでやることだ。

良く言われることでもあるが、実際のところ、これを実践するのは難しい。なにより、自分自身をよく理解して、自らのやり方に断固たる確信を持つ必要がある。これが押しの強さにつながる。

最初は抵抗にぶつかるが、それを乗り切れば、ほぼ自分のペースで進められる。やがて成功の実績が、確固たる自信となり、さらに確信を強める。ただ、方向性を誤ると、その後の方向修正が難しくなる。

表題の作者もそうだったと思う。一瞥しただけで分る個性的な絵柄。アメリカン・コミックの影響を強く受けたと思われる絵柄は、未だ追随者を許さぬ個性を確立している。日本では、アメコミ風の画風は従来受けがよくなく、タブーに近かったことを思えば、ある意味革新的だった。

なによりも主人公である海賊コブラのキャラクターが立っていた。フランスの映画俳優であるジャン・ポール・ベルモンドをモデルにしたかのようなコブラは、強さとユーモラスさを兼ね備えた魅力的な主人公だった。その強さとは裏腹に、心の奥底に悩みをかかえ、それを軽薄なふるまいで押し隠すそぶりも好評だった。

ただ、あまりに完成したキャラクターであったため、そのイメージが逆に作者の創作活動を縛ってしまった。表題の作は、SF漫画としては、成功の部類に入るが、その後が苦しかった。

ゴクウやバットといった類似の作品を幾つも発表したが、どれもヒットには程遠かった。完成されたスタイルは、むしろまんねりに陥ってしまった。

初期の段階から、CGを積極的に採用したことが、結果的に足を引っ張ったと思う。当時のPCの能力では、なかなか思い通りに絵が描けず、創作よりもPC操作に時間がとられた。

CGという技術に引き摺られ、かえって漫画そのものの魅力を低下させてしまった。とても残念に想う。今も漫画を描いている現役だが、少しマニアックに過ぎる。もう一度、原点に帰って、面白い漫画を描いて欲しいと願っている。
コメント (8)
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