ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「鋼の錬金術士」 荒川弘

2008-04-18 12:26:21 | 
親しいからといって、なんでも話せる訳ではない。

毎日会っているのに。一番信頼しているのに。それでも、なんでも話せる訳ではない。むしろ、親しければ親しいほど、踏み込めない空隙は深く暗い。

もし、話してしまったら。もし、尋ねてしまったら、壊れてしまうかもしれない。大切な関係だから、一度壊れると、もう二度と元には戻らない気がする。だから、怖くて訊けない、話せない。

誰よりもそばに居るのに、話せない秘密がある苦悩は深く重い。そんな人間ドラマをしっかりと描き切っているからこそ、表題の漫画はヒットしたのだと思う。もちろん、ファンタジーものとしても傑作だと思う。愛情と欲望、戦争と平和などの要素を含みつつ、少年向け漫画であるにもかかわらず、子供向けの逃げをせずに、堂々残酷な場面をも直視しする気概が良し。

なによりも、苦悩を抱えつつも前へと進もうとするエルリック兄弟の苛烈な姿勢が頼もしい。強い意志の元にこそ、未来は拓かれる。与えられるのでなく、自らの意志と行動で獲得する生き様こそ読むに値すると思う。

私もいくつもの秘密を抱えている。職業上のものは三途の川まで抱え込むつもりだが、家族の間での秘密はどうする。今では私しか知らない話だが、未だ話せずにいる。いつかは話さねばならないと覚悟している。もう妹たちも大人だし、耐えられることは分っている。信じている。

それでも今は話せない。話す時は決めてある。その時はいずれ訪れるだろう。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする