ヌマンタの書斎

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プロレスってさ 上田馬之助

2013-04-04 12:02:00 | スポーツ

日本人初の本格的悪役レスラー、それが上田馬之助だった。

髪を金髪に染めて、竹刀を振り回し相棒のタイガー・ジェット・シンと肩を組んで入場し、善玉レスラーを痛めつけ、観客の罵声を浴びながら退場する。それが悪役レスラー、上田馬之助だった。

決して人気のあるレスラーではなかった。金髪はいつもまだら模様で、典型的な細い目のアジア人顔とは合っていなかった。また長身ではあったが、ビール腹が突き出した体型は恰好良さからは程遠く、それを黒タイツの下半身がなおさら強調している。

同じ悪役でも、狂信的な暴れっぷりを感じさせたタイガー・ジェット・シンと比べると、どうしても地味にみえてしまう。リングサイドで暴れても、逃げ遅れた老人に配慮しているのが見え見えで、その老人の背中さえ踏んづけるシンほどの凄みを感じなかった。

だから、決して人気のあるレスラーとは言いかねた。ただし、玄人筋からの評価は高かった。これは同業者であるプロレスラーも同様であった。実のところ、タイガー・ジェット・シンは上田以外のレスラーとはタッグを組みたがらなかった。

投げ技から関節技まで使いこなせる実力派のシンにとって、上田以上のパートナーは考えにくかったらしい。もっといえば、シンは弱いプロレスラーとは絶対組まなかった。シンにとって上田は信頼するに足るプロレスラーであったらしい。

でも、当時観客として観ていた私には、上田がそれほどの実力者には思えなかった。ずっと、たいしたことのないレスラーだと思っていた。

ただ、上田に関する噂はいくつか耳にしていた。リングでは情けない戦いをしようが、控室に行けばチャンピオンでさえ席を譲るとか、真剣勝負には無類に強い実力者だとか。

聴きながら、本当かいな?と疑っていた。

そんな私が自分の目を疑ったのは、UWFが解散して新日本に戻ってきた前田と上田の試合であった。なんと、上田はあの前田の蹴りを何度も受けながら、まったく倒れなかったのだ。

ジュニアヘビーの高田の蹴りを、当時越中が分厚い胸で受け止めただけで話題になっていた頃である。本格的な蹴り技をプロレス界に持ち込んだのはUWFの選手たちだが、その中でも前田の蹴りは別格だった。

長身な上に体重もある前田の蹴りは、体格が一回り大きい外人レスラーでさえ嫌がる威力であった。巨体の坂口でさえ、前田の蹴りは引いて衝撃を弱めて受けていたほどだ。あのアンドレでさえ、本気の前田の蹴りからは逃げたぐらいなのだ。

しかし、上田は引くことなく無造作に受け止めた。それも一発や二発ではない。130キロ近い体重が乗った前田の蹴りをこれほど淡々と受け止めたプロレスラーは、これまで見たことがなかった。

最後は意地になってとび蹴りまで繰り出した前田の蹴りの前に唐黷スが、私も含めて多くの観客は上田の実力に度肝を抜かれた。いくら角界出身といっても、あの受けの強さは半端なもんじゃなかった。影の実力者の噂は、本当だったのだとようやく気が付いた。

悪役レスラーには、そのリング上の振る舞いとは裏腹に、個人的には良い人が多い。上田もその例にもれず、リングを降りれば善人として知られた人だ。ただ、プロの悪役たらんと徹していたので、善人とみられないように努力していたらしい。

プロレス好きの私だが、嫌なのはプロレスの世界で成功するのは、私人としては嫌な奴が多いことだ。金の亡者だったり、いい恰好したがる奴ほど成功する。そして良い奴ほど冷遇される。それは上田にもあてはまった。

興行地への車での移動中に事故に遭い、半身不随の重傷をおっての引退。皮肉なことに、引退してからようやく上田馬之助に関する真実の話が出るようになった。やっぱり、いい人であった。少し気の弱い、でも優しい大男。それがマダラ狼と呼ばれた悪役レスラー上田馬之助の実態だった。

既に故人ですが、こんなプロレスラーもいたんだと知っておいていただけたら嬉しいです。

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