ヌマンタの書斎

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贈与税の非課税 その一

2013-04-16 09:37:00 | 経済・金融・税制

「これって非課税ですよね!」

国税庁の電話相談(コールセンター)の業務をやっている時、一番困る質問が冒頭のそれだ。

税金がかからない、すなわち非課税であることを確認したくてしてきた電話なので、無理もないと思う。思うけど、そう簡単には答えられない。

税法の規定のなかには、非課税に関する項目が列挙されており、ここに該当しない限り非課税だとは答えにくい。ただし、個人の所得に課税する所得税と、法人(会社・企業等)に課税する法人税では、比較的具体的に列挙されているため、例外あれども比較的解答しやすい。

困るのは相続及び贈与に関する非課税の扱いだ。

ちょっと脱線するが、相続税法という税法はあるが、贈与税法という税法はない。税の世界では、贈与は相続の前払い的性格を有するものと考えられているので、相続税法のなかに贈与税は規定されている。要するに、贈与は相続の一部なんだと考えて欲しい。

ちなみに相続も贈与も、無償による財産の所有権移転を意味するが、その原因が相続(贈与者の死)によるものか、それとも贈与者の意志によるものかの違いだけである。

この相続及び贈与における非課税の扱いこそが、一番答えにくい。

たとえばだ、お爺ちゃんが毎年、子供や孫の名義の預金に一人100万円づつ贈与したとしよう。

贈与税では、その年に贈与を受けた財産の価額の合計が110万円(基礎控除)以下ならば、100万マイナス基礎控除110万<0で非課税となる。だから、この贈与を10年続ければ、一人合計1000万円を税金なしで子供や孫に移転できる。

できるはず・・・そう考えやすい。しかし、そうは問屋が卸さない。

よくあるのが、お爺ちゃんが子供や孫の預金口座に振り込んでおきながら、子供たちが勝手に使うのを心配して通帳も印鑑も手元に置いているケースだ。自分が死んだら、自由に使え。そういうことらしい。

このような贈与を、税務署は形だけのものだと考えて、お爺ちゃんが死んだ(相続発生)時点では、名義は子供や孫の名義であったとしても、実質はお爺ちゃんの預金そのものなので、これを相続財産と考える。必然、相続税の課税対象である。

また、これに似たものとして、奥様のへそくりがある。

このへそくりは、奥様ご自身はもう自分のものと考えている場合が多い。だが、これもそう素直に認められるものではない。奥様に独自の収入があれば話は別だが、専業主婦の奥様の場合、いかにへそくりがあろうと、それは旦那が稼いだお金が名義を変えただけと税務署は考える。

子供や孫名義の預金はもちろん、この奥様のへそくり預金も、税務署は亡くなった人の相続財産だと考えて課税してくる。

前者の場合は、お爺ちゃんが管理している以上、贈与は完成していないと考えるからだ。また後者の場合、専業主婦である奥様に独自の収入がない以上、それは旦那のものだと考える。これが課税の根拠であり、幾多の判例により確立している。

だいたい、発覚するのは相続が終わって数年後、税務署が調査に来た時だ。相続が発生すると、税務署は銀行口座を洗い出し、上記のような名義預金やへそくり預金を探し出す。そして相続人たちを呼び出して、修正申告を求めてくる。

まァ、税法の素人が抗議しても、まず通らない。つまり贈与は非課税ではなかったわけだ。

しかし、これを非課税とする場合もある。

まず、前者の場合だが、子供や孫名義の預金を子供や孫が管理して、それを既に使っていた場合だ。この場合、贈与は完成していると考える。もちろん金額と時期如何によっては贈与税の修正申告が必要な場合もある。しかし、税法の時効が完成している場合、税務署は課税出来ない。

後者の場合は、少し違う。奥様のへそくりが見つかるのは、それが銀行預金という形で残っているからに他ならない。残っていなければ課税しようがないし、見つけられなければ(推算はできるが)課税できない。

だけど、多くの場合、奥様は預金したがる。元々が将来のために残そうとするので、どうしても安全な金融商品にしてしまうのだろう。また子供や孫と違い、夫婦の場合の財産は、名義が違えど共有財産と見做されるので、預金から他の金融商品に変えても贈与は完成しないからだ。

金丸・元副総理の脱税事件で有名になった無記名国債を使って、へそくりを隠した人もいたが、これも購入時点では無記名だが現金化しようとすると預金に一度入金するため、この時点で隠していたへそくりは発覚する。

また最近、とみに注目を集めている純金の延べ棒だが、これも購入時、売却時にその情報が税務署に通報される。社会的に信用のあるお店では、必ず金の売買情報は税務署に流れると思ったほうがいい。まァ少額ならば見落とすこともあるかもしれないけど。

そんな訳で、贈与を非課税とするのは案外難しい。

だけど、それでも自分の財産を子供や孫にやるならともかく、税金として国にもっていかれるのは嫌だと考える人は少なくない。

そんな訳で、日本全国、いつもどこかで税務署と国民との間で揉め事が起こる。この生前の贈与を非課税としたい国民と、それを相続財産として課税したい税務署との争いは絶えることのない揉め事であった。

今回の平成25年度税制改正では、この揉め事に一石を投じる改正が含まれている(以下、次回)

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