ヌマンタの書斎

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贈与税の非課税 その三

2013-04-18 17:27:00 | 経済・金融・税制
前回書いた教育資金等の一括贈与の非課税措置という奴は、かなり変わったものなので、少し詳しく説明したい。

これは時限立法(期限が限られている)で、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に行われる贈与にのみ適用される。

まず、祖父母等が子供や孫の教育資金に充てる為の資金を、信託銀行などの一定の金融機関に拠出(1500万円が上限)し、その金融機関を通じて学校等に教育資金として支払うことを要件に贈与税を非課税とするといったものだ。

ただし、その教育資金を貰える(間接的ではあるが)子供や孫には年齢が30歳未満という制限がある。またその教育資金の内容だが、入学金や授業料などのほか、学校以外の者に支払われる一定のものだと規定している。

まだその内容は明らかになっていないが、おそらく下宿先の家賃などを考えているのだと思われる。また学校には大学や高校のほか、専門学校も含まれると思われるが、それは文部大臣が今後決定することになっている。

どの程度、需要があるか分からないが、それなりに効用のある制度ではないかと思える。ただ、実務家としては、いささか悩まざるを得ないのも確かだ。

実を云えば、もともと贈与税の非課税規定のなかには教育費が規定されている。これは法21の3③で「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためしした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるもの」は非課税だと規定しているのだ。

この規定の取り扱いが実際上は難しい。普通一般的にみられる親が子の学費を払うのは当然であり、これに課税するわきゃない。だが、祖父母が孫の学費を支払うのは、少し微妙なところだ。祖父と孫の間に扶養義務があるかどうかのはともかく、孫の学費に悩む子供を助けようと親(祖父母)が援助することは珍しくもない。これに課税することは、税務署だってまずやらない。

だが、絶対に課税しないと断言はできない。公立の高校や大学文系ならともかく、私立医科大などの場合、入学金、寄付金、授業料などは高額だ。でも、それはあくまで医科大学なら通常必要な範囲だといえる。しかし、実家を離れて下宿している医科大生の生活費の援助となると、そう簡単には非課税と断言しかねる。

実際、某財閥系大企業の会長のお孫さんが都会で大学生活を送るに当たり、某高級ホテルに4年間住まう費用を負担した事例などは、かなり悩ましい。ホテル代だけでも相当な金額となるが、それ以外に外国製高級車まで買い与えたようで、これが税務署の目の留まるところとなり争いになったこともある。

いくら車で通学しているという事実があっても、それを通常必要なものと認めていいものか。地方にたまにあるバスなど車でしか通学出来ない大学なら分かる。しかし、都内の駅から近い大学で、車が通常必要であると言えるのか。

たしか裁判にもなったと記憶しているが、判決内容は覚えていない。納税者敗訴であったように思うが、これは致し方ないと思う。

では、次のような事例はどうだろう。郷里を離れて下宿する子供へ、親が毎年200万円の仕送りを春先にしていた。子供はそれを株に投資し、アルバイトに精を出して、自力で授業料や家賃、生活費を稼ぐ一方、大学はギリギリの成績で卒業した。

4年間で800万円の株式投資を行い、卒業時には1200万近い株式を持つに至った。これを元手に卒業後は起業して経営者として活躍したのだが、そこに税務署が目を付けて、贈与税の申告をするように言ってきた。

税の問題をはなれて考えてみると、ある意味立派なお子さんだと思う。だが、この場合、教育資金としての仕送り金は800万円は非課税とはならない。暦年課税なので、一年200万円の贈与で、四年分の贈与税の申告が必要となる。

贈与の問題は、その実態をよく把握しないと、とてもじゃないが安易に非課税との結論を出しにくい。だから、最初の回に書いたように、贈与に関する質問については、非課税との答えを言いづらいのだ。

もっとも私ら税理士は、この贈与税の取り扱いの微妙さを利用して、少なからず節税プランを資産家に提示してきたのも事実。だからこそ、今回の信託銀行を活用した教育資金贈与の非課税の取り扱いには神経質にならざるを得ない。

このような教育資金贈与の非課税特例を創設したということは、従来の単純な贈与に対して課税を強化するつもりではないのか?

実務家として、このような疑問が芽生えてしまう。もちろん期限付きの特例なので贈与税法を抜本的に変えるものではない。しかし、税務行政の現場では、どのような影響が出るのか、いささか悩ましい。

更に下種の勘繰りを付け加えるなら、今回の特例は信託銀行等一定の金融機関の認証を要することも気にかかる。手数料はいかほどなのだろうか。いずれにせよ、このような金融機関には財務省からの天下りが、今後も絶えることがないのは確かに思える。

世間はアベノミクスなどと浮かれているが、どうも今回の税制改正はきな臭く思えて仕方ありません。
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