現在の地球において、一番繁栄を誇っているのが人類であることは間違いない。
生息領域は熱帯から寒冷帯にまで及び、化石燃料によるエネルギー利用により巨大な文明を築いている。あまりの繁栄ぶりに増長し、他の生物を絶滅に追いやる有様であるのはご承知のとおり。
ところが人類は個体としてみると、むしろ弱者に近い。鋭い牙もなければ、切り裂く爪も持ち得ない。固い皮膚がある訳でなく、さりとて巨体であるわけでもない。人間の歯の構成をみれば分かるように、本来は雑食性であり、断じて肉食性の哺乳類ではない。むしろ肉食性の哺乳類にはない臼歯などをみれば、草食性哺乳類の歯に近い。
にもかかわらず、人類が地球において繁栄を可能にしたのは、道具を使った集団戦闘が出来る唯一の生物だからだ。道具を使う生物は少数だが存在する。しかし、戦闘に道具を駆使するのは人間だけだ。
敢えて断言させてもらえば、人類は武器あってこそ繁栄できた。もちろん武器を作り出し、活用することを可能にした高度な知能あってこそだ。更に付け加えるならば、高度な知性は言語による情報伝達による集団戦闘の高機能化だけでなく、武器の使用を世代間にわたり伝えることを可能にした。
武器という道具を駆使しての集団戦闘が出来るからこそ、人類は地球で勝利者の地位を勝ち取った。そして、武器の発達は人類の歴史そのものである。
例えば車輪の存在がそれだ。この車輪という道具を、いったい何時誰が発明したのかは不明だ。分かっているのは紀元前2千年頃に中央アジア近辺で道具の運搬に車輪が用いられて形跡があることだ。そして、この車輪をつけた箱を馬に曳かせて戦車として活用したのが、オリエントの覇者であるシュメールだ。
車輪だけではない。青銅器や鉄器は農具にも用いられたが、なにより武器として研究、開発された成果でもある。人類は数多くの発明をなして、それを道具として文明の発達に活用してきた。しかし、なによりも道具の発達を戦争に利用することで繁栄してきた。
火力を動力源として活用することに代表される産業革命は、その典型例として明記されるべきだ。何故なら、産業革命により銃器、火砲が大量に安く生産できるようになったからだ。この破壊力が飛躍的に増大した武器をもって西欧は世界の大半を勢力下においた歴史的事実は、何故か日本の歴史教科書では無視されている。
極論かもしれないが、この銃器の大量生産がなければ民主主義が広まることはなかったろう。何故ならフランス革命とその後の革命戦争において、本来支配者階級(王や貴族)だけが保有できた銃器が、市民たちの手に渡っていたからこそ、市民の武力による権力奪取が可能になったからだ。
民主主義の確立には、多くの市民たちが手に取った銃器の存在が大きく貢献している。有名なドラクロワの絵をよく見て欲しい。自由の女神に率いられた市民兵たちの足元には、戦いの最中に唐黷ス多くの人々の死骸が横たわり、それを踏み越えてこそ民主主義は確立されたのだ。
自由の女神は流血を欲す、とまでは云わないが、それでも断言しよう。今、我々が享受している平和と民主主義は、戦争により得られたものだと。
私は話し合いによる和解とか、法治による平和、あるいは愛情と信頼に基づく安定といったものを否定しているのではない。これはこれで大切なものだ。しかし、人類を平和と安定に導いてきたのは、戦いの結果であるのは否定してはいけない事実だ。
ところが、戦後の日本には歴史の事実に目を背けて、憲法9条という空想に囚われた平和盲信者が跋扈している。シナやコリアのように日本を貶めておきたい輩はともかく、大半の憲法9条信者は善良なる大人しい一般人だ。
良き隣人、良き市民たらんと務めている真面目な人ばかりであることは私も認める。しかし、人間と歴史に対する考察が甘い。人間が今日の繁栄を享受できたのは、人が平和を愛するからでもなければ、戦争を否定してきたからでもない。
人と云う生き物は、道具を使った戦闘を集団で行う技術に長けた、すなわち戦争に勝ち抜いてきた結果、今日の繁栄を勝ち取った。つまるところ、人類の歴史とは、戦いに勝ち抜いた積み重ねでもある。
ジャレド・ダイヤモンドのこの著作が優れているのは、人種的優位性とか、宗教的使命といった概念から離れて、人間の行為について論証的に、かつ具体的に解明しながら、人間社会の姿を多面的に捉え、それを総合して著した点にある。
なぜ西欧は産業革命を起こせたのか、なぜ今も原始的生活に安住する人たちがいるのか、そして何故、西欧は世界の大半を支配下におけたのか。それを科学、宗教、技術、農業、生物学、医学及び疫病学そして戦争といった多方面にわたり考察を重ねた成果がこの本なのだ。
勘違いされても困るが、ダイヤモンド氏は別に戦争賛美者ではない。医学、生物学にとどまらず、インドネシアの熱帯雨林にフィールドワークとして長期滞在するなど、理論と実践、考察と実地体験などを元にして従来にはない画期的な人類史を書き上げた先駆者である。
どうか勇気をもって人類のこれまでの実績すなわち歴史を、論理的に科学的に直視して欲しい。そうすれば見えてくるはずだ。人類という生き物は、戦争と共に歴史を積み重ねてきたという醜悪ににして逞しい真実が。
私は戦争を美化するつもりはない。しかし、戦争を人類に不可避、不可分の現象として理解し、少しでも平和な毎日が続くよう願っている。そのためにも戦争を理解し、可能な限り戦争をしないで生きていけたらと考えている。
だからこそ、歴史を学び、事実を知って、それを未来に活かすべきだと思う。平和は願って叶えるものではなく、平時の地味で絶え間ない努力(諜報、外交、威嚇、妥協、協調)の積み重ねで勝ち取るものだ。
この本は、そのための一助となりうる知識を提供してくれると思うので、是非ともご一読願いたいと思います。