現在、私たちが日常的に使っているお金は、不兌換通貨である。
人類が物資の交換に通貨を使うようになって数千年である。初期の通貨は、貝や巨石が使われたりしたが、次第に貴金属に替わっていった。なかでも銀貨こそが、人類の歴史で最も長く使われた通貨である。
だが、産業革命と西洋によるアジア、アフリカの侵略により、人類の経済圏は飛躍的に拡大した。希少な貴金属では、もはや通貨としては足りなかった。そこで考え出されたのが兌換紙幣である。
20世紀初頭までは、先進国では紙幣は金や銀に換金できた。金や銀が通貨の信頼性を担保していた。しかし、経済が拡大して、使用される通貨量が飛躍的に増大した結果、金や銀で担保できる規模を超えてしまった。
だから現在、流通している通貨は、政府が保証する不兌換通貨である。政府が保証するといっても、その政府に信用がなければ意味がない。その信用の根拠とは、単に経済的に裕福であることではない。
現在の基軸通貨であるドルは、アメリカ政府の政治的な立場こそが担保である。すなわち覇権国であることだ。覇権国であるからこそ、経済でも主導的な立場をとれる。そして覇権国であるためには、軍事力こそが絶対必要な条件となる。
アメリカは軍事大国であるがゆえに政治的に覇権国であり、経済的なイニシアティブをとれる。しかし、軍事力というものは、ただひたすらに資源を浪費するものであり、過剰な軍事力はむしろ国の力を損ねる。
だからこそ、経済力が重要視される。経済の裏付けのない覇権国なぞ、短期間で終わってしまう。経済という視点なくして、人類の歴史は語れない。
黄金の国ジパングと日本が呼ばれたのは、中世から近世において日本が銀の大輸出国であったからだ。中米メキシコのボゴタ銀山と、日本の石見銀山は、中世から近代にかけて世界中を駆け巡り、新大陸への侵略と、アジア侵略に大いに寄与した。
もっといえば、銀の流れの理解なくして、ヨーロッパの侵略と産業革命は理解できない。銀貨がいかに人を動かし、社会を変貌させ、歴史を動かしてきたのか。それを知るだけでも、本書を読む価値はあると思います。
日本では日清戦争により得た多額の賠償金が、日本の近代化に大きく貢献したことは、歴史教科書にも書かれています。でも、その賠償金が、銀貨でもなければ金貨でもない。日本が獲得したにも関わらず、ロンドンの銀行に入金されていたことは、この書で初めて知りました。
あの時代において、日清戦争の賠償金は異常なほど巨額でした。なぜにあれほど巨額であったのか、またその資金は、本当は何に使われたのか。これを知るだけでも、お金が如何に世の中を動かすのかが分ると思います。是非ご一読を。