白状すると、私は以前よりも不勉強になっている。
ほんの十年前、私は税理士会公認研修会に年間100時間以上出席していた。ところが昨年は10時間を切ってしまった。最低限の研修しか受けていないどころか、義務化された時間もクリアしていない。
原因は分かっている。細かい仕事が増えて、研修に費やす時間が十分取れないのだ。また体調も良くなく、自宅で出来るはずのオンライン研修さえもやっていないからである。ぶっちゃけ私は家では眠りたいのだ。
さすがに拙いので、なるべく研修テキストや書店で売られている改正税法の書物は読んでいるが、10年前に比べて不勉強である事実は覆せない。まァ、その分実務の積み重ねで得た経験で補っているが、内心焦燥感もある。
根底にあるのは年齢による体力の低下であることは分かっている。予想もしていたのだが、まさかこれほどとは思っていなかった。これは非常に良くないことだ。
人間、誰だって年齢を重ねれば体力は落ちる。だからこそ、積み重ねてきた経験と知識が重要になる。その知識は常に更新し、研鑽しなくてはならない。自分の仕事に直接関係あることだけでなく、一見無縁と思える知識も後々大切になることだってある。
まだ私が熱心に研修会に出席していた頃のことだ。講師は主に税理士、公認会計士が中心だが、時折弁護士や司法書士など周辺業務の分野の方を招待することもある。その時の研修では経団連から税制対策室の方をお呼びした。
当時のWTO/GATT関連の講演であったが、正直経団連の影響力の凄さに驚いた。やはり大企業の政治への影響力は侮れない。同時に不安にもなった。中小企業や零細事業者のことは、ほとんど触れていなかったからだ。
そのことを久々に思い出されたのが、今回の種苗法改正騒動である。
既に報じられているので詳細は省くが、日本で開発された新品種の野菜や果物が無断で海外に持ち出されて、結果的に日本の農業が損害を被ることを防ぐため、種苗法の改正が提起された。
これはむしろ遅きに失したくらいで、早期に解決すべき問題であろう。ただ、この改正法案は農業関連の大企業に有利な仕組みであり、小規模な農家が行ってきた自家増殖などを規制する内容であることが、騒動の発端である。
私の知る範囲では、農協などは以前から、その点を問題視していたようだが、その意見は農水省に軽くみられていたようだ。農作物や果樹の種、苗木などは農協もやっているが、なんといっても高い技術力を有する大企業有利である。
世界でもTOP10に入るサカタのタネが有名だが、それ以外にも国内には数多くの種苗販売会社が存在する。だが基本的にはこの数十年老舗企業が安定して活動していたのだが、バイオ技術の導入が業界を一変させた。
近年目立つのは、欧米の遺伝子改良技術を元にした穀物種苗の大躍進であろう。日本では遺伝子改良にこそ否定的な風潮がみられるが、世界的にはもはや主流となっている。この新規市場に対しては、世界的な投資家グループも注目しており、現在は業界の変革期である。
そんな最中、日本の種苗会社が危機感を抱き今回の種苗法改正を働きかけたとみられる。だが、大企業が働きかけただけあって、零細農家の伝統的な手法を規制する改正案にしてしまったことが問題視された訳だ。
はっきり言えば、根回しがなさすぎる。農協などは当初から意見具申していたようだし、改正法案にもそれは反映しているように私は思う。でもその周知が徹底されていなかった為、小規模農家が反対の声を上げ、消費者もそれに賛同したため騒ぎが大きくなった。
小規模農家やミニ農地で野菜などを育てている消費者はかなり多い。その彼らを無視して法案改正を推し進めたが故に、今回の改正法は大騒ぎになった。はっきり言えば、トップダウン方式の失敗です。
霞が関はもっと現場の声に耳を傾けろ。大企業の作ったよく出来た資料ばかり見てないで、もっと現場に足を運べ。酒の席に足を運ぶことを嫌がるな。農家の本音を聴きだせないからこそ、今回の改正法案はしくじったと思いますね。
私もかなり勉強不足。本で得た知識だけでなく、現場の声をもっと聴くべきだとは、本当に耳に痛い話です。