ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

カラピナ

2021-06-04 11:59:00 | 日記

命綱なしで岩壁を登るなんて御免こうむりたい。

ところが、この命綱ことクライミングロープの取り扱いは、案外と難しい。

まず、けっこう重い。そりゃ一本30~40メートルもある太い化繊ロープなのだから、重いのも致し方ない。昔の綿ロープで、それも水を吸った奴の重さを覚えている私からすれば、今のクライミングロープの軽さは素晴らしい技術の進歩である。

でも日中登りっぱなしで、帰る時にロープをまとめるの、けっこう辛かったな。特にフリーで登った後は、腕が疲労でガクガクなので、ロープを掴むことさえきつかった。

しかし、命を預けるロープだけに、けっこう大事に扱っていた。山を知らぬ友人に、洗濯用のロープを奨められたことがあるが、あんなの墜落一発で破断すると教えておいた。まぁ、単に軽くて安いので、お気軽に雑談で言っただけだと思う。

実はロープにはもう一つ問題がある。それが摩擦だ。たかが摩擦であるが、これが非常にキツイだけでなく、危険でもある。特にジグザグにルートを取ると、必然ロープもジグザグになる。この時、各支点にかかる摩擦がロープを手繰ることを難しくする。

またロープが岩角にこすれないように設置しないといけない。鋭い岩角は、単に摩擦を引き起こすだけでなく、墜落時にはロープを切ることもある。上手にロープを張らねばならない。

だから岩角を避けて、なるべく真っ直ぐにロープを張るが、人工壁ならいざ知らず、本場の岩場ではそうもいかない。どうしてもジグザグにならざるを得ない時がある。

順番が相前後したが、クライミングの際に張るロープには、通常数メートルごとに支点を作り、墜ちた時の衝撃を段階的に緩和するようにしている。この支点に打ち込むのがハーケンであり、ボルトである。

そして、そのハーケンにはシュリンゲ(スリングとも呼ぶ)と呼ばれる平のロープを解してカラピナをセットする。シュリンゲを使うのは、なるべくロープを真っ直ぐに張るためだ。そして、カラピナを介することでロープの摩擦を緩和する。

面唐ノ思うだろうが、全ては墜落時の安全を保証するための道具だ。なにせ墜落時には、墜ちる距離にもよるが数トンの荷重がかかるときもある。ロープはもちろん、シュリング、カラピナもそれに耐えられる強度が求められる。

当然ながら、そうなると金属製のカラピナはけっこう値段が張る。学生にはきつかったが、これを安物で済まそうとは思わなかった。うろ覚えだが、垂直方向に2トンの荷重に耐えられるカラピナがお薦めだと教わった。

実際、私も登攀中に何度も墜ちているが、ロープに助けられている。その時の衝撃は相当なもので、10メートルの墜落でも、全身に衝撃が走った。一応、衝撃を和らげるハーネスは付けていたが、後でカラピナをみたら歪んでいて驚いたことがある。

そんな実体験があるので、私にとってクライミングロープやカラピナは命を託す重要な道具である。

しかし、時代は変わった。街をみれば、カラピナに鍵や小物をぶら下げている若者は珍しくない。一種のお洒落アイテムと化して久しいらしい。まぁ便利なキーホルダー程度の認識なのだろう。

それはそれで構わないけど、100均で売っているようなお洒落なカラピナは、間違ってもクライミングには使えない。先日、ちょっと知り合いのオジサンたちが山に登るというので話を聞いていたら、登るのが岩場のある山だった。

私が経験者だと知られていたので、ロープなどが必要かと訊かれたので、その山の縦走路なら不要でしょうと答えた。その答えにちょっと不満げの顔をしたので、よくよく聞いてみると、既にロープを買ってあった。

しかも10メートル・・・なんに使うんだろう? ふと、荷物を見るとカラフルなカラピナがぶら下げてある。これどこで買いましたと尋ねると、100均とのこと。

登山は初心者だと聞いていたけど、こりゃヒドイ。ファッション用のカラピナは、山では脆すぎてダメだと教えておいた。不満げなので、よ~く本物との違いをきつく教えた。

っつうか、見よう見まねで登攀用具に憧れるなよ。危ない、危ない。

コメント (2)
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