戦後の日本の特徴は、なんといっても政策の主題を経済に絞ったことだろう。
そして、戦後の日本の最大の欠点は、なにごとも経済中心の視点で判断してしまうことだろう。このことを異常に思わない日本人が多いのが、なによりその証拠である。
決して経済を軽んじるつもりはない。経済はその国の土台であり、しっかりした基盤があるからこそ、政策は実行できる。だが、経済を中心にして考えることは弊害が大きい。
多少の例外はあるが、歴史上多くの国家は、まず自国の安全をこそ第一に考える。すなわち軍事力こそが自国の安全を保証する。だが軍事力を高めるには、経済の基盤が非常に重要となる。
戦前の大日本帝国は、日清戦争での勝利の賠償金で飛躍的軍事成長を遂げたが故に、基礎となる経済基盤が脆弱なまま大陸での戦争に深入りし、挙句に巨大な経済的基盤を持つアメリカにまで戦いを挑み、惨めに敗北している。
この経験が精神的外傷(トラウマ)になっているためか、戦後の日本人は一貫して経済を政治の主題と考え、経済力=国力だと錯覚した。現実には、アメリカの軍事的庇護下にあるからこそ、経済に偏ることが可能であったに過ぎないが、この事実を無視する人は多い。
困ったことに戦後70年以上の歳月を経ているにも関わらず、軍事力を無視した経済評論家が大半を占める。その点、表題の書の著者は、地政学的視点を持つなど多様な見地からの論述が魅力的である。
なかでも科学的見地からの経済論議は読みごたえがある。この書でも詳しく取り上げられているエレクトリック(電気)からケミストリー(化学)への移行の解説は、私自身随分勉強になった。
ただ、それでも経済評論家の欠点である軍事知識の欠落が目立つのが残念だ。多少は知識はあるようだが、適切な軍事力を保持するための見識に欠ける。これは、日本に軍事学を教える高等教育機関が存在しない(防衛大を除く)ことも大きい。
過度な軍事力は、経済を圧迫し、政治的選択を狭めるが、不足する軍事力は国家の存亡にかかわる歴史的事実を無視した未来予測は、説得力に乏しい。その点が残念でならない。
しかし、科学的見地から今後の日本経済の進むべき方向を明示している本書は、その部分だけでも読む価値があると私は考えています。機会がありましたら、是非ご一読のほどを。