ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

明夫と良二 庄野潤三

2009-03-24 12:18:00 | 
辛い時は、丸くなって寝てしまうのがいい。

高校三年の冬を終え、大学受験も一通り済ませて後は結果を待つだけだった。正直あまり緊迫感はなかったと思う。大学なんて社会に出るための最後の階段に過ぎないと思い込んでいたからだ。

高校の成績は学業だけなら、多分学年でトップクラスだと思っていた。出席日数というか遅刻の数が異常に多かったので、推薦入学は無理だったが、実力で受験を通り抜けるつもりでいた。それだけの勉強は積み重ねたと思う。

ただ気持ちが集中していなかった。深夜の机の前で勉強しているつもりで、ふと気がつくと思い出すのは振られた彼女のことばかり。断ち切るようにノートに集中するも、手は動いていない。気がつくと外は朝日が昇っている。

受験に集中できぬまま、曖昧な気持ちで試験に挑んだのが不合格の原因だった。分っていた癖に、妙なプライドが邪魔して認めたくなかった現実。未練があったというより、気持ちを切り替えられなかったのが一番の失敗だ。

だから最後の不合格を知った時も、それほど意外感はなかった。ただ、やりきれぬ虚しさが身体の底にどんよりと澱み、心ばかりか身体までも重くする。

まだ昼前だったが、弱った獣が草叢に身体を隠すが如くに、ベッドに潜り込む。眠いとは思わなかったが、起きていたいとも思わなかった。だから、布団を被って潜り込むように眠った。

目が覚めたら、既に夜だった。Yに電話してみる。

「おぅ、どうだった」
「いや、駄目だったぜ」
「なんだ、俺もだ」
「しょうもねえな」

たわいない会話を交わしただけだが、少し元気になった気がした。気がつくと腹が猛烈にすいてた。やっぱり友達っていいものだと思う。

さりげない日々の暮らしと、振り返って痛感するささやかな幸せのありがたみを書かせたら絶品なのが、庄野潤三の素晴らしさだと思う。この繊細でありながら、おおらかな優しい心根に憧れるようになって久しいが、私には未だ遠い境地でもある。

気分が荒廃した時にこそ、ささやかな幸せを感じ取れるようになりたいものだ。
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もっとどうころんでも社会科 清水義範

2009-03-23 12:13:00 | 
丁度今頃の時期だったと思う。

小学校入学を控えた頃だった。毎週一冊ジャポニカの百科事典が家に届けられるようになった。多分、母が頼んだのだと思う。

毎週届くこの百科事典を私は楽しみにしていた。今にして思うと、私の雑学趣味はここから始まっている。この頃は、小説を読むよりも、百科事典や動物図鑑などを読む時間のほうが長かったと思う。ちなみに、当時一番の愛読書は「ウルトラ怪獣図鑑」だった。

小学校の図書の授業でも、呆れる先生を尻目に百科事典を夢中になって読んでいた。この傾向は3年生ぐらいまで続いた。転校先の小学校で担任の先生と揉めて、その先生がバカにする推理小説に出会ったことが転機だった。先生への反発も手伝って推理小説を読むようになり、ようやく百科事典から卒業できた。

以来、ミステリー、歴史、SF、伝奇、ホラーと純文学に反発するかのような偏った読書を続けている。私が純文学を認めるようになったのは、中学2年の時に読んだ庄野潤三からだ。庄野潤三はある意味、私の恩師ともいうべき作家でもある。この方の静寂な文章にどれだけ救われたか。

さりとて、雑学趣味を失くしたわけではない。なるべく広く、浅く、いろんな知識を知りたいとの思いは、私の知的好奇心の基盤として築かれている。私は今でも、知識は人を幸せにすると信じている。信じたいと切望している。

しかし、現実は必ずしも理想を反映しない。知らなかったほうが良かったと後悔することは、決して少なくない。知ってしまったがゆえに抱え込んだ苦悩も少なくない。

活字で書かれた情報を無邪気に信じたゆえに、かえって現実が見えなくなったことも数多ある。書かれたものを信じるのではなく、自らの見識に従って判断することが必要だと分ったのは、20代も半ばを過ぎてからだ。

表題の本は、博識をもってなる清水氏のエッセイだが、時としてイラストに本文が負けていることがある。自らの実地経験のみの偏見と悪意をふりかざす西原のイラスト(または漫画)に負けるあたりに、机上の知識の限界があるのかもしれない。

その意味で、清水&西原のコンビはイイ組み合わせなのだろう。社会科以外にもシリーズはあるので、機会がありましたらお楽しみください。
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金融犯罪の仕組み 小沼啓二

2009-03-19 12:25:00 | 
人類の歴史上、富と権力が常に求め合うのは当たり前のことだった。

もっといえば、清廉潔白な政府なんて貧乏国以外ありえなかった。権力は常に富みを求め、富みは権力に吸い寄せられるのが人間社会の当たり前のかたちだった。

権力を得るには力が必要となる。歴史上その力は武力であることが必要不可欠だったが、権力は血縁による継承が可能でもあった。あるいは宗教のような精神的な力を背景に権力を得ることも、しばしば見られる現象だった。

近代以降では、民主主義という名の数の暴力により権力を得ることも可能となった。されど権力が富を求め、富が権力に擦り寄る状況に変りはなかった。

しかし、古来より賢明なる権力者は、富を得る手段を法治により、誰にでも公平に、かつ平等に出来るよう工夫をこらした。秦の始皇帝は法治を掲げ、オリエントの王様はバビロニア法典を作り上げた。

権力者は、その有する権勢をもって嫌がる民から無理やりに富を簒奪することが出来る。しかし、嫌がる相手から収奪できる富は無限ではない。強欲なる権力者が、その欲望に任せるままに富を積み重ねれば、民は国を捨て余所へと逃げ出してしまう。

これでは永久に富み栄えることは出来ない。そこで考えた権力者は、富を得る活動(主に商業活動)を安全に、かつ公平に誰もが出来る状況を作り出し、そこに民を集めることを考え付いた。民の活動を権力により保証して、安心して稼げる場を提供することで、その富の一部を堂々と税として納めさせることで、より多くの富を得ることを可能ならしめた。

国家と言う名の権力が、普通の大衆にも富を稼げる場を提供し、その安全を保証するがゆえに、多くの民が集まり、今まで以上に繁栄を実現させた。これこそが、巨大な国家を作り上げる最上の方法であったことは、歴史が証明している。

ここでのポイントは、富を得る活動は誰にでも平等であり、安全に出来ると思えることであった。それを保証したのが法であり、裁判所であった。もっとも現実には、少数民族や冷遇された宗教の信者には平等ではなく、さまざまな障害もあったが、それでも多くの民が希望を抱いただけでも上出来だった。

しかし、いつの時代にも人より多く富みを得たいと願う輩は絶えることはない。権力者に擦寄り、自分に有利なように法や制度を歪め、不公正なる手段をもって多くの富をかき集めることは、何時の時代、どの国でも極めて魅力的な手段であった。

そして、古来より多くの権力者がこの誘惑に負け、不公正な金儲けに手を貸し、甘く腐った金塊の褥にだらしなく横たわったものだ。国家権力の上部が、この不正に染まった時、当然に不正は社会全般を侵し、腐敗と悲劇が町を覆いつくすこととなる。

その結果として、かつては繁栄を誇った大帝国は衰退し、外敵の侵略を招き、滅びの道を辿る羽目になる。歴史上外敵の攻撃だけで滅んだ国家は少ない。むしろ国家の内側での腐敗と混乱により弱体化したがゆえに、滅びの日を迎えることが多い。

だからこそ、国家権力の不正は批難されねばならない。泥棒がいかに多くとも国は滅びない。国家権力が泥棒同様不正を働くような事態になり、それを批難する声が消えた時こそ、その国は滅びる。

顧みて我が日本はどうか。この国でも権力者が絡んだ不正はかなりある。かなりあるが、妙なもので一部に集中するのではなく、かなりの層に薄く広く拡散して不正が存在する。要するに「赤信号、皆で渡れば怖くない」という事らしい。

不正による腐った果実は、小さく、多様にばら撒かれたが故に罪悪感は薄く、誰もが努力(それが違法だとしても)すれば、その魅惑的な甘い果実に齧りつける。それゆえに、いまだ金融犯罪はなくなることなく存在する。

しかし忘れてはならない。この小さくばら撒かれた不正な果実は、多くの大衆の富を掠め取ったものだということに。まだ大衆は我慢しているが、それがいつまでも続くと思わないことだ。

既に国民年金制度は若い世代には信用されていない。不正を不正とも思わずに、甘い腐臭に倫理観を麻痺させたまま、大衆の犠牲の下に繁栄を貪る権力の退廃は、そろそろ限界に達しつつある。

法や制度を歪めて、不正を不正にみせない小細工は万能ではない。マスコミがこの金融犯罪の告発をサボりだしたら
その時こそ繁栄に終わりの幕を下ろすこととなるはずだ。官庁の広報資料の垂れ流しに終始する大手新聞、TVのありようは、日本の繁栄が終わりに近いことを告げる予兆に思えてならない。

まぁ、いつかは滅びるのでしょうが、出来たらその日は見たくない。あたしゃ、のうのうと暮らしていたいものでね。
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ちいさな恋のものがたり みつはしちかこ

2009-03-18 15:59:00 | 
これは母が買ってきた漫画だと思う。

私の知る限り、母が漫画に手を出したのはこれだけだ。もちろん、妹たちは「りぼん」や「マーガレット」といった少女漫画雑誌を読んでいたが、母が漫画雑誌を読んでいるのを見た記憶は無い。

母の勧めもあって、妹たちは夢中になって読んでいたと思う。勧められることはなかったが、当時から既に活字中毒に陥っていた私も、暇な時に読んでいた。

正直言って、それほど面白いとは思わなかった。むしろ不思議に思っていた。サリーって魅力的な男性なのか?

まだ小学生であり、思春期に入る前だったせいもあるが、私にはさっぱり分らなかった。スポーツ万能なわけでもなく、喧嘩が強いわけでもない。侠気にあふれるわけでもなく、智謀に優れたわけでもない。いったい、チッチはどこを好きになったのだ?

しかし、妹たちはそうは思っていなかったようだ。どうも、男と女では評価の基準が大分違うらしい。

さすがに、この年になるとポイントは「優しさ」だと分るが、それでも男の考える優しさと、女が考える優しさには、いささかのズレがあることも分る。

それにしても、シンプルな絵柄だと思う。素朴といってもいいが、そっけないほどの単純な絵柄だ。複雑なデッサンなどまったくない。それでいて、描かれるストーリーは、心の揺れ動きや、感情の乱れを表現している。だからこそ、当時の女の子たちは夢中になれたのだと気がついた。

私はそれほど少女漫画に詳しいわけではないが、類似の絵柄の漫画をみたことがない。その意味でも凄い漫画だったのだと、あらためて気がついた。

別に確たる根拠があるわけでもないが、この漫画を読んだことの無い大人の女性って、ほとんどいない気がする。それとは逆に男性で読んだことのない人は、とても多いと思う。

私にとっては懐かしくも、不思議な漫画でした。
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サブプライム問題で思ったこと

2009-03-17 12:14:00 | 経済・金融・税制
手で書くって、けっこう大事だと思う。

私の働く税理士業界では、コンピューターの使用が当たり前になり、今じゃ税額計算は税務会計ソフトにお任せの時代である。昔は法人税の別表4と5の検算に頭を悩ませていたことを思うと、ソフトが検算してくれる今は隔世の感がある。

また字の汚い私にとって、ワープロソフトで綺麗に印字された決算報告書は、商売上実にありがたいものでもある。今更手書きの時代には戻れない。

しかし・・・私どもの事務所では、今でも大事な数字は手書きで検算するように努めている。

不思議なことに同じ数字でも、コンピューターで入力された数字はすぐに忘れ去られる。一方手書きで書いて検算した数字は頭に刻まれるが如くに覚えられる。

確固たる根拠がある訳でもないのだが、手で書いた数字のほうが脳裏に深く刻まれるらしい。

このため、私は新規に開業した事業者には、出来る限り最初は手書きで帳簿を付けることを勧める。資金繰りの感覚を身に付けるには、会計ソフトでは駄目だと思う。やはり自分で数字を書き込み、電卓を叩き、結果をノートに書き込むことで、経理状況が頭に印象付けられる。

もちろん事業の規模が小さいうちだけだ。規模が大きくなれば経理担当者に任せないと、とてもじゃないが記帳は間に合わない。しかし、開業当初ならば、出来る限り経営者自らが手書きで会計帳簿を作るべきだと思う。そのほうが、確実に経理状況を把握できるからだ。

現在、世界規模で吹き荒れる不況の原因の一つが、いわゆるサブプライム・ローンの破綻であることは間違いない。金融技術が発達し、最新の財務分析ソフトで投資の安全性を図る欧米の金融機関は、なぜゆえに今回の金融危機を回避できなかったのか?

もしかしたら、財務情報の判断をコンピューター・ソフトに任せすぎたことが、今回の金融危機を読み取れなかった原因ではないかと、私は考えています。いくら優れたソフトでも、そこに数字を入力し、ソフトに計算させた結果だけを判断した場合、その結果の数字は印象が薄いのではないか?

もし手書きで財務分析を計算していたのなら、違った印象があったのではないだろうか?手で書こうと、コンピューターで入力しようと数字は数字。出てくる数値に変りはない。だが、脳が認識する印象度は、かなり違うのではないかと私は考えています。

もしかしたら、単なる気の迷いかもしれませんが、私は案外手書きの効用を信じています。ですから、顧客との面談ノートや仕事で使う備忘録も、私はすべて手書きです。このほうが頭に入ると信じているものですから。

唯一難点は、字の汚さに自己嫌悪を覚えることぐらい。もっと綺麗に書きたいと願っているのですがね。
コメント (6)
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