ワシの名前はパトラッシュ。
長年の労働でくたびれた、見ての通りのオイボレ犬だが、そんなワシにも安らぎの時はやってくるもんじゃ。
うむ、分っている。ワシには自分の死期が近いことぐらい分っているのじゃ。
神様は、こんなオイボレ犬に最後の仕事を下さった。
それは大きな二本足どもにいじめられ、追い立てられて、夢も希望もなくした少年を神様の下へ連れて行くことじゃ。
胃袋が空っぽのひもじさよりも、希望をなくした空っぽの心が少年を痛めつけているのがワシにも分る。吹き荒む冷たい風よりも、いたわりのない冷たい視線が少年の身体を凍らせることも、ワシには分る。
せめてワシの毛皮で暖めてやりたいが、ワシももう限界じゃ。だが、最後の力を振り絞ってもやらねばならぬことがある。
ワシは神の命じるままに、紐を咥えて思いっきり引っ張ったもんじゃ。すると隠されていた絵が少年の頭上に広がった。
ルーベンスとかいう画家の描いた絵だそうじゃ。少年の瞳が輝き、その絵に向かって這い寄るのがわかる。それが最後の命のともし火を燃やし尽くすことだと、ワシはすぐに気がついた。
ワシもまた寄り沿い、少年に一人で行かせやしないことを伝えた。命の灯火が尽きつつある少年の瞳に、ワシの気持ちが伝わったことが、その微笑から分った。ワシは満足じゃ。
もう何も見えん。でも、少年がすがりつく感触だけは分る。もうすぐじゃ。もうすぐ神の御許へ行けるじゃろう。
長年の労働でくたびれた、見ての通りのオイボレ犬だが、そんなワシにも安らぎの時はやってくるもんじゃ。
うむ、分っている。ワシには自分の死期が近いことぐらい分っているのじゃ。
神様は、こんなオイボレ犬に最後の仕事を下さった。
それは大きな二本足どもにいじめられ、追い立てられて、夢も希望もなくした少年を神様の下へ連れて行くことじゃ。
胃袋が空っぽのひもじさよりも、希望をなくした空っぽの心が少年を痛めつけているのがワシにも分る。吹き荒む冷たい風よりも、いたわりのない冷たい視線が少年の身体を凍らせることも、ワシには分る。
せめてワシの毛皮で暖めてやりたいが、ワシももう限界じゃ。だが、最後の力を振り絞ってもやらねばならぬことがある。
ワシは神の命じるままに、紐を咥えて思いっきり引っ張ったもんじゃ。すると隠されていた絵が少年の頭上に広がった。
ルーベンスとかいう画家の描いた絵だそうじゃ。少年の瞳が輝き、その絵に向かって這い寄るのがわかる。それが最後の命のともし火を燃やし尽くすことだと、ワシはすぐに気がついた。
ワシもまた寄り沿い、少年に一人で行かせやしないことを伝えた。命の灯火が尽きつつある少年の瞳に、ワシの気持ちが伝わったことが、その微笑から分った。ワシは満足じゃ。
もう何も見えん。でも、少年がすがりつく感触だけは分る。もうすぐじゃ。もうすぐ神の御許へ行けるじゃろう。