入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’19年「冬」 (26)

2019年01月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 西山(中央アルプス)は雪だ。雪が白い垂れ絹のように麓まで山の姿を隠してしまっている。部屋の炬燵の中で、すでに充分に積もった根雪の上にさらにもっと、雪が降り積もる様子を想像している。足の辺りに、柔らかい雪の感触が甦る。乾燥した粉雪は捉えどころがなく、なかなか前進させてくれないあのもどかしさも一緒にだ。

 また昔話だが、多分今ごろの時季だった。阿弥陀の南稜から頂上へ行くつもりで一人で入山した。その日の夜は過去に幕営したことのある見晴らしの良い、緩やかな雪原にしようと決めていた。初めての時は、まだ枯れた木が何本も倒れずに残っていて、今ならそんなことは許されないが、それで豪勢な焚火をしたこともあった場所だ。ところがその日は意外に時間がかかり、ついにはまだ樹林帯の中のわずかな平地を選んでテントを張るにようなことになった。
 本能のようなものかも知れないが、単独の場合は余計に、周囲が開けている場所に設営したくなる。風や、雪崩のことも考えた上でだが、目当てにしていた場所はまず安全な、急な登りが終わる樹林帯の途切れた場所だった。諦めて、実生から生えたモミの木の間の窮屈なねぐらと、いつものことながら極寒の長い夜に震えた。
 そのころは、だんだん山へ一緒に行く相手がいなくなたころで、単独行は必然のように考えていた。一人で味わう孤高の快感、冬の山のあの孤独感を、誰かが言った「地球の回る音が聞こえる」ような重い沈黙とともにその夜も、全身で感じていただろうか。
 翌日、風雪の中を頂上まで登った。そして愚かにも多分、軽くこなしたと自惚れて帰ってきただろう。また少し偉くなったような気がしていたかも知れない。
 
 それから何十年もして、こうして雪中の山行を振り返ってみて、そのころの自分を嗤いはする。それでも、当時の諸々の錯誤や思い込み、熱狂を取り除いても、山は残る。何も誇れるようなことはできなかったが、山を選択したことは今でも自分ではそこそこ納得している。だから、入笠牧場の管理人をこれだけ長く務めることができたのだとも。(1月28日記)

 あれからまた、入笠の雪の量は増えただろう。きょうのPHも1月26日の撮影。


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