入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’21年「春」(58)

2021年05月14日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 ダケカンバがこんなふうに全身を晒すように見せてくれる時季も、そろそろ終わる。白樺は一足早く、すでに小さな若葉が遠くからも目に付くようになってきた。薄桃色の葉と、その間にチラチラと白い花が水滴のように見える山桜は、まだしばらくは見られるだろう。

 ようやくきょうから第1牧区の電気柵の立ち上げを始めた。大きな空、広大な視界、そんな中で豆粒のようになって、雪で折れないように倒しておいたグラスフアイバー製の支柱を立て、ワイヤーを張っていくという作業だ。頭は使わない。
 少しづつ下っていきながらも、複雑な地形の場所では登ったり下ったりを繰り返しながら進む。段々調子が出てくると、まるで登行や登攀の時に感じる高揚感さえ湧いてきて、いつの間にか仕事に没頭している。捗るにつれ、面白さに似た気持ちが加わってくる。
 
 牧区の一番低い「どん底」と呼ぶ場所まで進むと、放牧地のすぐ下の松の木の根元に前から古い穴がある。今年はそれに加えて2個も新しいのができていた。クマには小さすぎるが、穴熊だったら丁度いい大きさだ。まだ使用中らしく、穴の主たちはどこへ行ったのか姿はなかったが、人の気配が去ればまた戻って来るだろう。
 以前に、県が鹿の調査のために監視カメラを設置したら、クマが写っていたというのはこの近くで、それを知ってからはやはり、少しは用心をするようになった。牧場内でも錯誤捕獲でクマを捕ったことはあったし、この場所ならクマが出没しても少しもおかしくないのだが、それまではそんなことなど全く気にもしてなかったのだから嗤う。
 その場を離れて少しすると、遠くで犬の声がした。山の中でも、気流の加減では思いがけないほど遠くの車の音がすることもあるが、それにしても気付いてから大分経っても声は止まない。それで分かった。声の主は犬ではなく、カエルよりも大きい、あれはヒキタの声ではないかと。ムー、多分だが。

 毎年まいねん、仕事始めは第1牧区の電牧張り作業で、もう何年同じことを続けてきたのだろう。県の鹿対策事業の一環として設置された電牧で、10年くらいは経つと思う。それでも、枝打ちとは違って、何か新しいことに取り組むような新鮮な気持ちがしてくる。山に熱くなったように、すっかりこの道、牧場の仕事に嵌まってしまった証拠だろうか。
 天気は高曇りながら、中央も北も、特に中央の西駒がきょうはよく見えた。
 本日はこの辺で。
 
コメント
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