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午前6時、気温零下2度、快晴。きょうもまた、いつ終わるか分らない長い一日が始まった。すでに撮影関係者は忙しそうに立ち働いている。毎度のことながら、こうした人々の働きぶりには感心する。まるで女王鉢のために飛び回る働き蜂さながらに、それぞれがそれぞれの役割をこなそうと奮闘している。
もちろん、女王蜂とは主役の役者のことだが、この人は撮影開始までは支度部屋として使われる小屋に控えていて、姿を見せない。特別扱いである。その他監督はもちろん、現場に関係する人たちの間にも微妙な上下関係があるらしく、叱ったり、謝ったりする人の声が混じることもある。それでも、概して和気あいあいと撮影は進んでいる。
「撮影、本番、アクション」という叫び声が聞こえてくる。同じ場面を幾度となく繰り返し撮り、その度に役者は何度も口にした台詞を繰り返す。こういう光景を見ていると疲れるから、普段はなるべく現場には立ち入らないようにしているが、今回は管理棟が舞台になるからそうもいかない。
できれば、春先に伐ったまま放置してある牧場内を走る道路沿いのコナシの木を片付けたいのだが、そうなるとチェーンソーを使うことになり、その音が邪魔して何かあった場合に連絡を取れない可能性がある。結局、現場から離れられず、長い時間を無為に過ごすしかない。
森の撮影は午前中に終わり、午後から管理棟を猟師小屋にしつらえた前庭で撮影が繰り返されている。準主役の中年の役者にはカメラに写らない範囲で罠の扱い方、下手糞な薪割りの仕方などに口を挟み、この後鹿の解体にも少し手を出すことになっている。
鹿は大型囲い罠にも2頭か3頭入ったようで、またくくり罠にも今朝、新たに1頭が掛かっていた。鹿による被害は甚大で腹が立つが、個々の鹿に憾みがあるわけではない。殺処分を助監督が買って出てくれたが、やはり素人に任せるわけにはいかない、それが屠る鹿への正しい態度だと思う。久しぶりだが、当然ながらやはり何度やっても慣れるわけではなく、平気を装ってはいても気が重い。
この鹿たちの処理をどうするか考えていたら、折よく県の職員のS氏から何かの講習に鹿肉を使いたいという申し出があり、快諾しておいた。
撮影はまだ続く。詳しい内容はまだここで呟くことができない。本日はこの辺で。