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Photo by Ume氏
きょうの写真、遠く雪を被った山々の連なりが中央アルプス、よく見れば御嶽山も乗鞍も見えている。中央の深い谷が「初の沢」で、左の少し急な尾根を古道・法華道が通っている。
初の沢をトウセンボするようにその向こうに低い山並みが見えるが、沢の流れは山室川と合流しさらに数キロ下ってここでほぼ直角に折れる。その辺りに小豆坂トンネルがあり、ここを抜けると「杖突街道」とも呼ばれる国道152号線が走り、国道は北上すれば杖突峠へ、南下すれば高遠、長谷に至る。
この写真を眺めていて、つい、通勤路の長さを思ってしまった。一口に片道38キロとは言え文字通り山あり谷ありで、山に入れば一部ではあるが舗装路でない悪路も走らなければならない。
それでも、激しく降る雨の日であれ、強い風の日でも、この長い通勤を嫌った記憶は殆どと言っていいほどない。自分でも不思議に思うが、激しい、と当時は思っていた山行から距離を置くようになって、山そのものが本当に好きだったのだと分かったように、自然が見せてくれる細やかで多様な季節毎の変化、姿を毎年のように眺めながら通い、中級山岳の良さに次第に取り込まれていったのだろう。
古女房が年齢を重ねるに従い美しく見える、という話など聞いたことはないが、愛情や信頼が深まるということは耳にするし、充分に納得できる。生まれ故郷は、古女房との強固な結び付きになぞらえるだけでなく、それに加え、年々美貌が磨かれていくように見え、この時季は特に美しい。
友人に不幸があり、昨日里に下った。きょう葬儀に出席し、また上に来たが、帰りに用事のついでに遠回りして、冬の間に夜の散歩に使った道路の一部を通ってきた。畑中を走る道路の周囲には落葉前の渋い秋が遠くまで拡がっていて、静まった雑木林やヒノキの林、果樹畑の中に見えた農家の佇まいなども含めて、まだ白秋の中の風景だった。
古女房を故郷に譬えたのが適切だったかは分からないが、「ふるさとは遠くにありて思ふもの」というのはあの人の場合で、近くで思う幸いも言っておきたい。
本日はこの辺で。