入笠の最もいい時季の一つが今だと思う。木々は葉を落ち尽くし、放牧地からは緑の色が消えた。周囲の自然は大方が活動するのを止め、そういう淡く枯れた情景に重要な役割を果たしているのが、深い静けさだと思う。少しでも歩けば誰もが、初冬の山の物言わぬ品の良さを至る所で感じるだろう。
一昨日に里へ帰り、しかし昨日も上に行った。囲い罠に9頭の鹿が入っていて、その始末をしなければならなかったからだ。それに猟期になると、他所からも狩猟目当ての人たちが来て厄介なことも起こる。鹿も捕獲されて数も減るからいいだろうと思うかも知れないが、銃ではあれだけに増えてしまった鹿の数を減らすことなど到底無理だ、できない。
捕獲した9頭の鹿も、4頭は逃げられてしまった。死に物狂いになって、2重の金網に激突してみたり、右前足の先を失った鹿が死にきれずにもがいたりと、いつものことながらしばらくは凄惨な場面が続いた。逃げた鹿は、自分たちが入ってきた入り口が、上から落ちてきたゲートで塞がれてしまったため、そのわずかな隙間をこじ開けて逃げたらしかった。こういう手抜かりをすると鹿は学習し、当分罠には近付かなくなるだろう。
今が最もいい時季のようなことを言っておいて、その平穏をぶち壊すような殺生に手を貸すのは何だと非難もされよう。確かにそうだ。それに、何頭かの鹿は犠牲になったが、有害駆除にどれほどの効果があったのかと思えば、あまりにも道遠しである。
その意味からも、前にも呟いたように、一日も早く避妊薬を使った鹿対策が行われるようになって欲しい。報償費の出る有害駆除を半ば職業にしている猟師の中には、これに反対する人もいるだろう。それも分かる。また、鹿を屠ることを動物愛護の観点から批判する人のいることも知っている。その意見も無視はしない。が、今はその辺の難しい問題について呟くのは控えておく。
農水省もだが、環境省が、こうした獣害問題をどんなふうに考えているか知りたいものだ。
昨日上に行って気付いていたが、オオダオ(芝平峠)の手前約10㍍で右から崩落があり、側溝が多量の汚泥で埋まってしまっていた。それで、またしても芝平からの市道は通行止めになるという連絡が入った。あれだけ何日も好天が続いても、土中では行き場を失った水が溜まり、あんな結果を招いてしまったのだろう。
きょうは午後から雨、さらに被害が大きくなりそうで心配になる。(11月22日記)
これから5か月、どうやって過ごすのかとよく聞かれる。まだしばらくは不定期ながら上に行くつもりだし、それ以外の日は、朝寝、朝酒、朝湯の幾日かを過ごす。温泉にも行くし、旅も考えている。そして、小原庄助サンになる前に、里での日常を回復させたい。
本日はこの辺で。