
最後のトラックが牧場を出ていったのは午前零時を回っていた。ということは、正確にはきょうになる。昨日、朝の6時から始まった撮影は、その後その時間までかかったわけで、特に装飾部を統括していた働き者の女性のごときはその間に、一度東京を往復していた。痩せていて、よくぞそれだけの体力があるものだと感心した。
準主役のM氏と、手の空いていた服飾部の2名の若い女性を連れて牧場を見せに行ったら、その眺めに感動して「生きていてよかった」と口走った娘までいた。3人は草の上に並んで横になり「気持ちいいー」と深い青空に向かって何度も叫びながら、片時の幸福を味わっていた。
後で、勝手に持ち場を離れたといって説教されたようだったが、あれだけの景色を目にできたのだから、叱られても行って良かったと笑っていた。
助監督に手伝ってもらって解体の場面に使う鹿を積んで帰ってきたら、準主役が見事に薪を割った瞬間に立ち会った。思わず手まで叩いてしまったが、後で聞いたら本番ではなかなかその薪割が上手くできず、全員が気を揉んでいたところだったとか。確かに事前に何度もコツを教えてもなかなか上手くできず、「運動神経が鈍いんだね」などとからかったら、彼は素直に頷いていた。
そんなこともあったが、久しぶりにやった鹿の解体もまずまずで、その後の撮影もうまくいったようだった。そういえば、解体の前に、撮影関係者全員が目の前の鹿に向かって黙とうをした。
撮影が始まれば当然遠くなるプロデューサー、監督、カメラマンも、撮影終了後には揃って礼を言いに来てくれた。
自分たちの仕事が終われば撮影、照明、音声とかが三々五々引き上げていく。結局残ったのがトラックの運転手と若い男性1名、他は前述した服飾部の女性の3人だった。
撮影では機材の搬入、搬出の大変さは毎回目にする光景ではあるが、若い女性たちがしんがりを務めたのは珍しかった。それでもよく耐え、頑張った。天体写真の撮影に来ていたかんとさんも、彼ら彼女らの働く姿を目にし、熱いコーヒーなどを振る舞い、励ましていた。
2名の男たちとはグータッチ、3名の女性とはしっかりとハグして別れた。もちろん、こんなことも初めてのことだった。
空が焼けてきた。今夜も、昨晩に続き夕焼け、そして星空が素晴らしいだろう。本日はこの辺で。