入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

         Ume氏の入笠 「夏」 (12)

2015年06月25日 | 牧場その日その時

Photo by Ume氏

 昨夜ここへ登ってくる途中に感じたことは、同じ荒れ放題の山道ではあっても、いつものように仕事を終えて家路につくあの気分、安堵と平安、それが逆の場合には全くないことだった。疲労のせいもあったが何となく重く、夜道に気の滅入るような思いがした。「山の人」になるために決めたことだが、毎日夕暮れの山道を帰るのも、大いなる慰安であったことがしみじみと分かった。
 家に帰っても一人だし、ここにいても一人だが、家にはあってここにないもの、ここにあって家にないもの、今夜の振子はどちらを指そうとするのだろう。どちらを指そうと、今夜もここで夜を迎え、一日を終えるわけだが。

 G君が昨夜F君を連れてここへ着いたのは10時ごろだった。彼女、そうF君は20代後半の女性、に鹿の止め刺しと、その解体を実習させることが目的で3時間もかけて来たのだ。印象の悪い女性ではなかったが、それだけにこんな若い娘がはたして、そんな野蛮なことができるものだろうかと怪しんだ。
 ところがF君はよく頑張った。「止め刺し」というのは、捕獲した鹿の頭部を鈍器で叩いて失神させ、素早く急所を刺して殺すことだが、そういうことを初めて体験しようとすることに不安や、揺らぎは見えなかった。さすがに急所を突くのはうまくいかず、苦しめてはいけないと手伝ったが、その後の解体もG君の指示に従い、ほぼ独力で成し遂げた。
 もう一つ驚いたのは、その後小宴を張ったが、F君はよく食べ、そしてよく飲んだ。あれほど鹿の内臓と奮闘した後だったのに、「立派、合格!」と言ってあげたいが、あんなことをか弱き女性に、させてもいいのだろうか。今度は罠の設置の実習もやることになっているのだが。

 おっ、牛たちが一斉に草を食べ始めた。そろそろ囲い罠から出して、もっと広い放牧地に移動させねば。今夜は久しぶりに星空を見ることができそうだ。
 
 入笠牧場からの星空に興味のある方は、5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また、入笠牧場の宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましては、4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

        Ume氏の入笠 「夏」 (11)

2015年06月24日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 梅雨の晴れ間を使って、小入笠まで電牧(電気牧柵)の立ち上げを行った。雪か鹿か、手酷くやられた箇所もあり、為に手間取り、またしても昼飯を食べに下りてくることができなかった。
 さて、で電気を通してみると、4,500ボルトしか出ない。最低でも5,500ボルトは欲しいところだが、こうなると、できることは電牧の下の草を刈ることぐらいしかない。もっともモニターによれば、漏電の数値は極めて低い。発電機の老朽化も原因の一つかも知れない。この電牧は第1牧区の鹿対策用とは違い牛を囲い、閉じ込める柵だから、これでは心許ない。

 今朝、JAXAの観測所の裏に仕掛けた罠に、鹿が1頭掛かっていた。昨夜クマ屋のG君から鹿の捕獲状況について問い合わせがあったばかりで、早速知らせてやった。明日の夜都合が付けば引き取りたいと言うから、今日は止め(殺す)ないでおくと伝えると、「早く始末しないと可哀想じゃないですかね」だと、思わず笑った。G君はライフルを所持し、狩猟期にはかなりの数の鹿を捕獲するベテランの猟師である。。考えてみればG君のようなやさしい男が、何故に鉄砲なぞを持ち、鹿やクマのような動物を狙うのか不思議だ。銃で殺すのは一瞬のことだから、さほど気が咎めないということなのだろうか。

 今日から「山の人」になるつもりでいたのに、病院へ行かないと薬が切れてしまった。ところが今G君から電話が入り、今夜来たいと言う。で、ひとまず下り、用事をすませたらまた上がってきて、それから「山の人」になることにした。

 入笠牧場の宿泊施設及びキャンプの営業に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。また、入笠牧場からの星空に興味のある方は5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

         Ume氏の入笠 「夏」 (10)

2015年06月23日 | 牧場その日その時

Photo by Ume氏
 
 「山の人になるはずじゃあなかったんですか」と問われた。確かにそのつもりでいたが、これが思ったほど簡単なことではないことが分かった。里には里のしがらみがあって、「長期に家を空けるなら、事前にその旨を伝えよ」と、留守の間に区費やら何やらの集金にきた長老さまを怒らせ、お叱りの文(ふみ)まで頂戴した。
 また、今財布の中も心許なく、しかしその補填をする時間がなかなか取れない。昨日はDさんたちが同級会ということで、山小屋「農協ハウス」ですき焼きをしていたのに刺激され、その夜の”一日を閉じる祭り”はすき焼きと決め山を下りた。偶々時間的に間にあいそうだったので、これ幸いとATMに飛び込めば、財布を忘れていることに気付かされた。我が事ながらその失態に怒り狂い、余計にムキになり、思案の挙句恥ずかしながらTDS君に助けを乞うた。
 振込もしなければならないし、草ぼうぼうの庭も何とかしなければまたご近所さまの不興を買う。冷蔵庫は里も上も両方が早く消費をと迫る。色々な所からの手紙、書類も中には放ってはおけない物もある。回覧板などという物もある。犬や盆栽も幾鉢かある。
 分かった!この気儘な一人暮らしが、逆に自由になれない根源だったのである。家人さえいてくれれば何事も任せて、もっと自由に家を空けることができたのだ。なんという、この深淵なパラドックス。独り身を前提として、というか幾年も当然として生きてきたが・・・、さりとていまさら、ムー。

 Dさんたちは、こんな山小屋での同級会の一夜を、大いにに愉しんでくれたようで良かった。昨日、今日と少し案内をしたので、皆さんに入笠の評価を高めてもらえたと思う。中には60歳で山を始めて、マナスルに登ったという女傑もいた。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また、入笠牧場の宿泊施設及びキャンプ場に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

         Ume氏の入笠 「夏」 (9)

2015年06月22日 | 牧場その日その時

                                    Photo by Ume氏

 大型囲い罠の中の牛を見にいこうとして柵内に入ると、1頭の和牛の様子が何だかおかしい。よく見ると、頭の角に網がかかってしまい、どうも身動きができないでいるようなのだ。なんとも複雑な絡みようで、こういうこともあるものだと驚くだか、感心するだか、おかしいだかで、しばらく様子を眺めていた。以前に、粗い格子状のゲートの四角い隙間に、これまた和牛が頭を突っ込み抜けなくなったことがあったが、このときは結構興奮していて、下手に暴れてゲートでも壊されては困るのでしばらく放っておくことにした。結果は、突っ込んだのだから、自分で抜くこともできたようだ。
 こっちのトンマな牛は、近付いて絡みついた網をほどこうとすると、暴れて頭を激しく動かす。手に伝わる牛の動きはかなり強烈だ。仕方ないから網を切断することにして軽トラに積んである鎌を取りにいこうとすると、何とかしてくれと牛は大きな声で吠える。分かったわかったとなだめすかして、結局どろんこの網は切らずにやっと解放することができたが、牛は自由になった途端、もうそんなことがあったことも忘れたかのように草を食べ出した。当然、一言のお礼もなかった。



 上の写真に写っている牛こそ、種牛見習いのNO222、唯一の雄牛。撮り方が悪く、目が隠れてしまったが、気性はそれほど荒いようには見えない。まだそれほど親しくなっていないが、少しづつ慣れてくれるだろう。期待は大きい。何しろ牧場の存続にも、大影響するから、ナ。

 巣鴨のDOCさま、コメントありがとうございました。色々な所を訪ねたのですね。谷中周辺は思い出深い、懐かしい場所です。山中くん、立派、大した者、あの雨の中高座岩、テイ沢・・・。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は、5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。入笠牧場の宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

         「夏」 (10)

2015年06月21日 | 牧場その日その時


  乳白色の深い霧の中を、牛の様子を見るために御所平に上がる。9時の時点で外の気温は10度Cまで届いていなかった。雨をまじえた風は、霧を追いやるだけの勢いがないようで、こういう日は牛の姿を見付けるだけでも大変だ。見当をつけて雷電さまの祠がある林に登っていくと、3頭の牛が雨に濡れながら草を食べていた。さらに御所平へと下っていくとご覧のようにそこにいた残りの牛たちは、草を食べるのを中断してやってきた。NO14もまだ警戒心はあるが大分落ち着いたようで、NO12の和牛は頭を撫ぜてやったらおとなしくそのままにさせていた。
 初めて御所平に上がったときも今日のような天気で、ほとんど何も見えなかった。それでも霧の立ち込めた放牧地の雰囲気は悪くなく、緑の草原(くさはら)の向こうに、自分の好みと同調してくれる森や林が、密かに待っていてくれるような気がした。
 霧がまたゆっくりと流れ、白樺の木や落葉松にからみ、そして次第に目の前の眺めを消していく。薄い影のように見える小梨の木々をゆする風の音が、妙に気になる。






  来なくていいと言っても、牛たちは遠くからやってくる

 ブログをしばらく上げることができなかった。てっきり原因はPCだと思ってそれなりにストレスを溜めていたが、キャンパーのG君やY君の助言でWi-Fiを再起動したら、呆気なく回復した。「インターネットには接続していますが、希望するWebページに移行しない場合は、現在のブラウザを閉じ新しいブラウザを開きます」だと。この言い方!この会社にはヤラレッパナシだ。
 
 明日の月曜日は時代遅れの山小屋で、Dさんたちの1泊2日の同級会が開かれる。ご婦人も参加されるようで、先日は長野からその下見にお越しいただいた。「こんな山小屋ですがホントにいいですか」と聞いたら、「自然がいっぱいで」と言って、その婦人は目を細めた。
 テイ沢から来たのだろう、雨の中を2人の登山者が行く。あそこはこんな天気でも、訪れた人を落胆させることはない。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また入笠牧場の宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましては、4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする